垂直落下式サミング

原爆下のアメリカの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

原爆下のアメリカ(1952年製作の映画)
3.5
インベージョンU.S.A.というそのものズバリの原題がイカス!カーモンベイベッアメリカ!ドゥリムのみかたをインスピィアッ!ここに描かれるのは、夢物語ではなく侵略される恐怖だ。
パールハーバー以前は、よそから国土への攻撃を経験したことのなかったアメリカ。大陸本土への直接の攻撃となると、9.11の同時多発テロがはじめてだろう。
いわゆる近代多人種国家アメリカってやつが独立宣言したのが250年ほど前で、第二次世界大戦までは経済でも戦争でも勝ち続けてきたから、スプートニクショックやキューバ危機が、庶民にとってもいかにひっ迫したものであったか、そういう背景を知ってみると面白い。ながい時間かけて積み上げた勝利ジェンガが、一気に崩れ去るさまはみたくないものですから。東西冷戦という状況下で、こういった不安をあおる作品がヒットしたのも頷ける。
国民のほぼすべてが移民の国ってのもあるのかも。それこそ何代にもわたってアメリカに住んでいる人たちにとっては、先祖が原住民を殺して血に染まった土地の上に家を建てて暮らしはじめたって闇の歴史のなかにルーツがあるもんだから、逆に土地を奪われて尊厳を踏みにじられるぞと言われれば、罪悪感が逆撫でされてゾッとするんでしょう。
酒場のテレビが告げる。とある共産国が、ついに仕返しにやって来た!登場人物はほとんど事件の渦中にはいないのだけれど、次々と都市が陥落していくことで、徐々に真実味を帯びてくるのは、けっこう現実に肉薄したリアリティがあったのだと思われる。
リミタリーファン的には、ところどころ特撮を挟み込みながらも、実際の戦闘機や軍艦が出てきて嬉しい。整備や出撃の様子から、戦闘シーンまでも!当時の軍事訓練で撮影されたものから、実際の戦場で撮られた映像までもが流用されている。嬉しいのだけれど…。
当時の実際の映像てことは、爆撃機による空爆とか、特攻してくる零戦を撃ち落とすところとか、特にあのきのこ雲とか、そこで明らかに人が死んでいるであろうに、そのまんまエンタメのネタに持ってくるのはどうなのよ?って思わなくもない。
もしもの世界の嘘っこつくり話のはずなのに、教育テレビが夏休みの終戦記念日付近に流すような素材で構成されているから、寝っ転がって鼻ほじりながらみて許される作品じゃないような気がしちゃって、なんだか不思議な感慨を抱かせる作品だったのでした。