キャッチ30

東京暮色のキャッチ30のレビュー・感想・評価

東京暮色(1957年製作の映画)
3.9
 公開当時、今作は失敗作の烙印を押されていた。内容の暗さと後味の悪さに共同脚本の野田高梧は終始否定的だったという。従来の小津映画を期待していた人たちには受け入れられなかったのも当然か。

 銀行監査役の杉山周吉は妻に逃げられ、長女の孝子が嫁いだ後、雑司ヶ谷の一軒家で次女の明子と暮らしていた。ところが、孝子が夫との折り合いが悪く、小さな娘を連れて実家に戻ってくる。明子は年下の男との子供を妊娠し、姿を消した彼を探しに毎晩彷徨っていた。そこに、家族を捨てた実母の喜久子が絡む。彼女はかつて京城で周吉の部下と深い関係になって駆け落ちし、その後日本に引き揚げ、五反田で雀荘を営んでいた。

 映画の中心になるのは明子の転落だ。明子はどこか屈折している。背景には母の出奔と兄の死が彼女の心に暗い影を落としている。周吉や孝子にも心を閉ざしている。いい加減な男の子を身籠り、死んだと思っていた母が生きていると知り、自分は周吉の子供ではないと思い込んだ彼女は更に追い詰められていく。

 家族の解体よりも女の一生に焦点を当てた映画だ。明子に扮する有馬稲子はアンニュイな表情を崩さない。その背後では激しい感情が蠢いている。喜久子を責めたり男に平手打ちを喰らわせる姿は眼を惹く。