武智麻呂

さらば、わが愛 覇王別姫の武智麻呂のネタバレレビュー・内容・結末

さらば、わが愛 覇王別姫(1993年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

人間の儘ならなさ、人生の儘ならなさがここまで美しいものに昇華されるのならば、儘ならない人生もそう悪いものではないかもしれないとさえ思える映画だった。
人の一生は運命に身を任せるものだと序盤から何度も繰り返されており、その運命的なものの示唆として蝶衣と小楼と菊仙の三人の関係が三すくみのようになっているのかとも思ったが、結局小楼の一人勝ちであり、しかしこの辺りの胸がすく展開でも悲劇にカタルシスがある訳でもないのが、儘ならなさに磨きがかかって好きだった。また見方を変えれば、小楼は自分を理解し己のこと以上に愛してくれる人間を二人も失い、愛する人も相棒も理解者も後見人も人生の殆どを懸けてきた芸も全て失った状態で、孤立無援のなか罪悪感に苛まれ続けて苦しみ生きると思ったら、三人の中で一番地獄かもしれない。
私が物心ついて間もない、おそらく人生最初期に観た五本の映画のうちに入るSAYURIの影響で、コン・リーと言えば初桃姉さんのイメージが強くあるのだが、この人は本当に、強かに強欲に生きようとするも悲しい運命に流されていってしまう遊女の役が、本人の人生に染み付いてしまっているのではないかと思うほどに似合いすぎる。
何一つ儘ならない人生を送る人間の悲哀から滲み出る色気は、この世の何よりも格別に美しい。
武智麻呂

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