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大阪物語の東京キネマのレビュー・感想・評価

大阪物語(1957年製作の映画)
3.5
井原西鶴の原作を溝口健二が脚色し、クランクイン時は溝口自身がメガホンを取ったが途中で急死。以降、吉村公三郎が監督を務める。

映画の主人公は仁兵衛(中村鴈治郎)で、雷さまは飽くまで脇。公開日を考えると『編笠権八』の半年後だが、明らかに芝居が進化していてる。

お話は、年貢が納められず一家共々夜逃げして、乞食同然の生活から大店の両替商にまで出世した仁兵衛の成功物語といったところだが、中盤からは金持ちになった甚兵衛の凄まじいドケチ振りが描かれる。一緒に苦労した妻のお筆(浪速千栄子)が病に臥せっても金が勿体ないと薬もやらずに死なせ、娘のおなつ(香川京子)には結納金欲しさに許嫁を勝手に決めてしまう。最終的には、おなつは番頭忠三郎(市川雷蔵)と駆け落ちし、息子の吉太郎(林成年)はおなつの許嫁市之助(勝新太郎)の気に入った太夫を身請けさせるために金を蔵から盗み、それがバレて勘当される。つまり、吉太郎は、おなつと市乃助それぞれの恋を成就させたのだ。

この一件で家族は散り散りになり、仁兵衛は発狂してしまうという結末。ちょっとオー・ヘンリーっぽいお話だが、それはそれ、西鶴だからそう単純な話になる筈はなく、日本人の好きな因果応報の教示が含まれているという案配。

中村鴈治郎、浪花千栄子、山茶花究といった上方バリバリの口上が心地よい。こういった大阪弁だったら決して不快にならない。ということは、大阪弁も戦後相当劣化したということだ。
大阪イコール吝嗇のイメージになってしまったのは、(吉本風?)大阪弁が下品になってしまったからなのだろうが、そういった単純な描写で見せるのではなく、当時(元禄)の義理、人情、見栄もある大阪商人の意気地を描くことによって、仁兵衛の守銭奴とのコントラストで見せている。

或は、町屋や太夫の美しさ、気の利いた小道具など、生活文化の高さといったものもしっかり描かれているので、貧乏物語で画面一色になるような描写もない。つまりは物質的な貧しさの話ではなく、あくまで精神的な話なんだよ、というのが感覚的に分かるような作り込みになっている。やはり、今の日本映画とは比較できないほどレベル高し。

それにしても、ラストに狂うというのはどうなんだろうか。狂うくらいだったら、それほどの守銭奴にはならないとは思うのだが・・・
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