ハル奮闘篇

フロント・ページのハル奮闘篇のレビュー・感想・評価

フロント・ページ(1974年製作の映画)
4.8
【 新聞記者のスクープ合戦を描く群像コメディ! ジャック・レモン&ウォルター・マッソーの名コンビ 子供のころ「面白い映画ってだいたいビリー・ワイルダー監督じゃん」と感激! 】

 ビリー・ワイルダー監督による1974年のコメディ映画。人気舞台の3度目の映画化だそうです。

 1920年代のシカゴ。テレビやラジオがまだ発達していなくて、新聞がマスコミの花形だった時代。裁判所・刑務所の建物にある記者クラブには、各社のクセの強い新聞記者たちが詰めて、酒と煙草とポーカーをやりながらスクープのチャンスをうかがっている。
 各国が共産主義の浸透にピリピリしていた時代。ウィリアムズという穏やかな男が娼婦たちに労働運動のビラを撒いていた最中に「警官を射殺した」という容疑をきせられて、明朝に絞首刑が執行されることになっている。
 
 そんな中、エグザミナー紙の敏腕記者ジャック・レモンが、場違いなお洒落をして鼻歌まじりに記者クラブにやってくる。記者仲間たちに「結婚して、こんなヤクザな記者稼業とは今日でオサラバするんだ」と告げてウキウキ、意気揚々。しかし、上司である編集長のウォルター・マッソーは優秀なレモンを失いたくない。これまでにもウソやでっち上げで何度となく彼の結婚を邪魔してきたひどい男なのだ!

「お前は根っからのブン屋だ。まっとうな結婚生活なんか出来るわけがない」
「ほっといてくれ。僕は生まれ変わるんだ」
「せめて最後に明日の死刑執行で素晴らしい記事を書かないか」
「無理だね、今夜の列車で彼女とフィラデルフィアに発つんだ」

 そんなことで揉めている折も折、「死刑囚のウィリアムズが脱走した」という情報が飛び込んでくる! 記者たちは警官に同行して町に飛び出していく。ところが、なんと当のウィリアムズが記者クラブの窓から部屋に逃げ込んできたのだ!編集長マッソーは「大スクープだ!」と色めき立って、ウィリアムズをこっそりかくまう。レモンには婚約者が迎えに来ているが、マッソーはなんとかレモンを引きとめて記事を書かせようと口八丁手八丁、レモンもブン屋魂に火がついてしまう!
 果たして、ウィリアムズは絞首刑を免れることが出来るのか!?そしてレモンは婚約者との幸せな生活を迎えられるのか!? …というお話です。

 この映画がまぁね、オモシロイんですよ!! 人気の舞台の戯曲がしっかりベースにあって、それをもとにビリー・ワイルダーと盟友I・A・L・ダイアモンドが脚本にしているんだから、面白くないわけがないんですけどね。
 例によって「お人好しのレモン」と「どんな汚い手でも使うマッソー」の丁々発止のやりとりがたまりません!

 さらに群像劇として、すごく良くできています。個性的な記者クラブの面々、主役コンビに振り回されるレモンの婚約者ペギー(なんと若きスーザン・サランドン)。ブン屋の好奇心にさらされるのは、心優しい死刑囚のウィリアムズと、彼に恋してなんとか助けたいと願う娼婦モリー。悪役トリオは死刑を執行して選挙前に支持を集めたい市長と、彼に言いなりのマヌケな保安官、ウィリアムズと面談してなんとか犯行動機をこじつけたい精神科医。そして彼らの悪だくみの一部始終を聞いていた清掃のおばちゃんと、なんと州知事からの「死刑執行延期」の命令書を持参した使者(市長の差し金でベロンベロンに酔わされちゃうんだけど!)。
 彼らが物語に見事にからみあって、一人として無駄な登場人物がいないんですね!

 2度目の映画化は名匠ハワード・ホークス監督の「ヒズ・ガール・フライデー」。編集長に軽妙な二枚目ケーリー・グラント。記者を女性、しかも元妻に置き換えた、いわゆる「スクリューボール・コメディ」の代表格。もちろんそれはそれで相当面白いんです。
 でも、僕としては、レモン&マッソーの二人の息ぴったりの名人芸と、群集劇のストーリーテリングの抜群のうまさで、こっちのほうが好みなんですよね。

 この映画は、小学生の時に初めてテレビの吹き替え版で観ました。当時の僕は映画ファンになりたて。テレビで「アパートの鍵貸します」「七年目の浮気」「サンセット大通り」などを観て、どれも抜群に面白かったんですが、その後、予備知識なしにこの「フロント・ページ」を観たあとに「監督が誰か」を知って「面白い映画って、ほとんどがビリー・ワイルダーじゃん!」と驚き、感激したことを覚えています。
 ちなみに、その吹き替え版、ジャックレモンは愛川欽也(キンキン)。絶品でした。