シネマJACKすぎうら

さあ帰ろう、ペダルをこいでのシネマJACKすぎうらのレビュー・感想・評価

4.2
ドイツから故郷ブルガリアへの帰省途上に遭った交通事故で両親を失い、自らの記憶をも失った青年が主人公。そんな彼が、迎えに来た祖父(=もうひとりの主人公)と共にサイクリングで帰郷する旅を描く”現在”と、未だ共産主義政権下にあった祖国からの亡命劇を描く”過去”。この二つのストーリーが交錯しながら物語は展開していく。

興味深いのは、描かれる”過去”のブルガリア。主人公の父親が亡命を決断するに至る状況には激しく共感させられつつも、決して当時の社会を”絶対悪”としては描いていない。確かに共産政権下の描写は、暗く不条理で鬱屈した面も浮き彫りにはしているが、実はもっとも哀しい運命は、”西側”への亡命後に起きているという矛盾をはらんでいる。(このあたり、直接は描かれていないが。)

要は、人生”いろいろある”ということなのだろう。凄まじいばかりの運命の荒波を乗り越えてきた青年の祖父は、過ぎてしまった哀しみには目もくれず、目の前にいる孫(しかし自分のことを憶えていない、、)と共に”失われた”何かをもう一度積み上げようとするのだ。溢れんばかりのパワーで。

そんな”おじいちゃん”の静かなるも熱い人生論が、時折、バックギャモンというゲームを通して描かれる。クライマックス、祖父と孫の間で繰り広げられる”闘い”は、この映画が唱えんとするひとつの人生観なのだろう。ここまで、彼らをめぐる苛酷な人生を見てきた観客は、このオチを”荒唐無稽”だとは言えないはずだ。

理屈抜きで、映画でも観て泣きたいときに。。。でも「ニュー・シネマ・パラダイス」は何度も観過ぎて涙腺が麻痺(笑)してしまったアナタには、是非おススメしたいイチオシの一本。

youtube動画でも本作を紹介させていただきました!↓
https://youtu.be/CL3yutpHSlM