kuu

Kids Return キッズ・リターンのkuuのレビュー・感想・評価

Kids Return キッズ・リターン(1996年製作の映画)
4.2
『キッズ・リターン』
製作年1996年。上映時間108分。

北野武監督の長編作品。
親友同士の2人の青年の成功と挫折を描いた青春ドラマっす。
シンジを安藤政信、マサルを金子賢が演じ、石橋凌、森本レオらが脇を固める。

高校の同級生シンジとマサルはいつもつるんで行動し、学校をサボって自由奔放な毎日を送っていた。
ある日、カツアゲした高校生が助っ人に呼んだボクサーに打ちのめされたマサルは、ケンカに強くなるためシンジを誘ってボクシングジムに入る。
しかしボクサーとしての才能を見いだされたのはシンジで、マサルはジムを飛び出しヤクザの世界へと足を踏み入れる。
別々の道を歩むことになった2人は、それぞれの世界でトップに立つことを約束し、互いにのし上がっていくが。。。

今はどうか分からないけど、少し前の日本じゃ格闘技(見る方も)が流行りまくり、俄に武道を学ぶ野郎(堅気を含めた、チンピラから現役の人たち)が増えた。
せやし、街でもめると(エエ歳こいたオッサンの小生がもめるのはアホですが)ナメてかかると意表を突かれることが多くなった。
しかし、小生のガキの頃じゃヤンチャなガキの中じゃ格闘技を学ぶのは稀で、今作品の様に助っ人って云っては現れる野郎はシバきあったら段違いに強かった。
そんな段違いの野郎に打ちのめされ、格闘技を学ぶガキもたまにいたかな。
そんなガキを描いてるのが本作品で、懐かしく観ました。
そんな本作品の序盤に、印象的なシーンがある。
新栄ジムに入門して間もないシンジ (安藤政信)が、 スパーリングで相手のボディに左フックを叩き込むシーン。
こんとき、相手は後ろに倒れダウンする。
実際、多くのボクサーは、ボディを打たれっと前のめりに倒れる。
ボディブローを受けてうしろに倒れることはめったにない。
小生は反射的に、ビデオ映像で何度も観たヴァンダム級のエデル・ジョフレと青木勝利の世界戦を思い出した。
ボクシング・フリークなら知ってる方も多いかと思う戦慄のKO劇。
27歳の王者ジョフレ(黄金のバンタム)は、20歳の青木勝利を3ラウンドでマットに沈めた。
それも左フックのボディブローを一発🥊。
後ろに飛ばされて、そんままカウントアウトされた青木の姿に、何度観ても慄然を覚える。
北野武監督は、あの場面を小生とは違いタイムリーに観て、鮮明に覚えていたんかなぁなんて思いました。
シンジの武器は左フックだけではない。
むしろ最初は、右のクロスカウンターで会長(山谷初男)やトレーナー (重久剛一)をうならせる。
なんでも、関光徳(元OBF東洋フェザー級王者)の左ストレートをモデルにしたらしいです。
余談ながら、ネットによると当時のボクサーには珍しく女性ファンの多い選手であった関光徳。
ちあきなおみが熱烈な関光徳ファンであり、『芸能界に入れば関さんに逢えるかも知れない』と思って歌手デビューを果たしたそうです。
関は左は『名刀正宗』って呼ばれたほどの切れ味だったそうですが、打たれ弱い脆さも抱えるスリリングなボクサー。
扨、今作品の主人公はボンクラ高校生二人。
ひとりはいま書いたシンジ。
もうひとりは同級生のマサル (金子賢)。
兄貴風を吹かせるマサルに対して、シンジはタメ口を利かず、『です』『ます』口調で対応する。
学生服は着ているものの、ふたりは授業にはほとんど出ない。
高校サボるくらいなら辞めて働けよ😀。
校庭でふざけ、 地下街で他の高校生をカツアゲするのが日常のクソガキ。
だけどある日、カツアゲされた高校生の連れてきた若いボクサーが、一瞬のうちにマサルをブチのめす。
発奮したマサルは倉庫を改造した新栄ジムに通いはじめ、シンジにも入門を勧める。
ところが、ボクシングの資質に恵まれていたんは、いつも一歩引いているシンジのほうやった。
型から入りたがるマサルは、入門早々に自分のリングネームを決めるほど能天気やけど、シンジと拳を合わせると、たちまちマットに這わされちまう。
ジムを去ったマサルの行く先は、アルアルの話の地元のヤクザ組織、昔の京都ならさしずめ虎徹ちゃん。
着々とのし上がっていく彼やったが(今じゃ腕力だけならステゴロでごろ巻くヤヤこしいヤクザもんにしかならんやろけど)、こちらでもやがて壁にぶつかる。
やくざらしいヤクザちゅう型を求める癖が出てもて、組織との関係をこじらせちまう。
一方、ボクシングの世界で頭角を現したシンジにも弱点があった。
マサルとの関係でわかるが、彼は常に兄貴分的な人を必要とする。
ボクシングの世界でも、いや格闘技や、先輩後輩とか上下関係が煩い世界は直ぐに兄貴分的な人は見つかる。
余談ながらポリスの世界も上下関係が煩いし、特にマル暴辺りは、後輩が先輩を『兄貴~』って呼んでるアホポリスもいる。
元新人王で、いまは性根の腐ったメフィストフェレス(16世紀ドイツのファウスト伝説やそれに材を取った文学作品に登場する悪魔)と化したハヤシ(モロ師岡) が、反則技の肘打ちを教え込み、煙草やビールをシンジに無理強いする。
こない書いたらわかるように、 マサルとシンジは、やっと見つけた己の容器から、再びはみ出さざるを得ない羽目になる。
愚かで純情で強気な若者にありがちな失敗やけど、そないな彼らのしくじりを、北野武は巧いなぁ、根気強い視線で撮ってます。
逆に云うと、死や破滅ちゅう安直な結末を用意しなかったんは、今作品の特筆する点かな。
北野武が目指したのは、ニヒリズムやシニシズムに呑み込まれないリアリズムやったんちゃうかと感じる作品でした。
kuu

kuu