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小説家を見つけたらのEyesworthのレビュー・感想・評価

小説家を見つけたら(2000年製作の映画)
5.0
【書くことと関わること】

ガス・ヴァン・サント監督、ショーン・コネリー主演の小説がテーマの友情物語。

【あらすじ】
ニューヨーク・ブロンクスの黒人少年ジャマル・ウォレス(ロブ・ブラウン)は気の知れた仲間とバスケをする日々を楽しんでいた。ある時悪ふざけで、いつも窓からこちらを望遠鏡で覗いている幽霊と噂される怪しい老人(ショーン・コネリー)の部屋に潜入することに。しかし、老人に気づかれ追い返される。その際にジャマルはリュックを忘れてしまう。それがきっかけで二人は交流するようになる。成績優秀で私立の高校に転入したジャマルは文学の授業でウィリアム・フォレスターという作家を知る。それがあの老人だと気づいた。そこから、ジャマルは彼のもとに通いつめ小説の書き方の指導を受けることに。バスケの大会に作文コンテスト、家族や友達との関係、次々と立ちはだかる難題に対して彼はどのように向き合い、どんな人生を歩み始めるのか…?

【所感】
ブロンクスらしく、冒頭ラップをする少年から始まり、ジャマルらバスケ少年達が映し出される。私はこうしたブラックカルチャーの原風景がたまらなく好きだ。そこに現れる老人フォレスターは元作家で堆く積まれた本の部屋で窓辺の鳥を観察している。ヒップホップにバスケットボール、本に鳥、たまたまだが序盤から私が個人的に好きなものが登場し、一気に心を掴まれた。そして、若い黒人と老いた白人の友情というテーマは作品でよくありがちな題材なのかもしれないが、お互い人種も年齢も考え方も全く立場が異なる2人の間に芽生える奇妙な友情に心を打たれた。

「自分のために書く文章は人に見せるための文章に優る」
「第一稿はハートで書く。リライトには頭を使う。文章を書く時は考えずに書くこと」

これらのフォレスターの言葉は、小説でも歌詞でも作文でも報告資料でも手紙でもフィルマークスのレビューでも(笑)どんな文章を書く人にも刺さる言葉だ。何も書けずに自分は才能が無いと嘆くより、取り敢えず書いてみて後々自分が思ったように自由に修正していけばそれでいいのだ。そのようにして出来た文章は、たとえ不出来であったとしても、それは紛れもないあなただけの作品と言える。そんなことを一心不乱に本を読み、文章を自分のメモ帳に綴っていくジャマルを見て学んだ。家から全く出ず人との交流を断っていたフォレスターが図らずも才能ある後進を育てるに至るまでどういう心の動きがあったのか。それはあのマディソン・スクエア・ガーデンの人混みに困惑し、誰もいないヤンキースタジアムでの懐かしい思い出を振り返る楽しい夜をジャマルがくれたからだろう。書くことは一人でもできるが、関わることは二人以上いないとできないことだから。
ジャマルはこの先もフォレスターの未発表作品を世に出し亜流作家として成功するのか、あるいは偉大なる彼の背中を追いつつも自分なりのオリジナリティで勝負するのか。彼には幾多の道が開けている。それは彼でいう才能あるバスケではなくとも、可能性は皆に平等に開けているのだ。
台詞回しや人物像がよく理解できない点もあったが、それらも余白として考える余地があり、とてもハートウォーミングでありながらそれでいて現実的な作品であると思った。ガス・ヴァン・サント監督の映画は隠しポケットから次々とビスケットが見つかるように優れたアイデアが詰まっている。まだまだ私には楽しめる余地がある。勉強しないとな。

〈追記〉
こないだ神保町の@ワンダーで外国人の夫婦が「ファインディングフォレスター」を話題に出しているのを聞いてなんだか嬉しくなった。
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