カトキチ

ディア・ドクターのカトキチのレビュー・感想・評価

ディア・ドクター(2009年製作の映画)
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素性の知らない男がある場所に行き、そこの場所にいる人々は幸せになっていくが、男は唐突に去っていくことで、周りのみんなに変化(幸も不幸も)が訪れる……という構成は古くは「テオレマ」や「家族ゲーム」などあるが(とはいえ他が浮かばなかった)、「ディア・ドクター」もその部類の映画で、どちらかというとこれは西川美和版の「ショーシャンクの空に」だと思う(ティム・ロビンスが刑務所の中で銀行員として労働に従事してたのも似ている)。

しかし「ショーシャンク」フォロワーにならなかったのは西川美和のテイスト……「ゆれる」的な要素を多分に含んでいるということ。

この作品、登場人物の言ってることに信憑性がなく、誰が本当のことを言っているのか、ウソなのか、どれが真実なのかよくわからないというところにたどり着く。もちろん刑事に問いただされているから保身のためにウソは言っているだろう。しかし、そこに真実がチラホラ見えるので、観ているこちらもどんどんゆらぎはじめる。なんなら刑事の言ってることも最終的には変わっていくのである(ネタバレになるので詳しくは書かないが、刑事が出てくるのは映画の冒頭でわかることなので問題はないだろう)。

で、そのゆらぎはもう中盤から顔を見せ始め、役者も表情で援護するがそれを余貴美子が一手に引き受ける好演ぶり。主役の笑福亭鶴瓶も脇にまわる香川照之もとにかくうまいのひとこと。やや停滞したり、もうちょっと削っていいとこもあるかなぁとは思うが、それでもかなりウエルメイドな作りで満足すること必至。おすすめである。
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