Jeffrey

満員電車のJeffreyのレビュー・感想・評価

満員電車(1957年製作の映画)
3.5
「満員電車」

冒頭、明治、大正、昭和。そして現代。ここは土砂降りの雨の中の卒業式。黒い傘が大量に蠢く。男は駱駝麦酒へ入社する。虫歯、発狂する両親、ストレス社会、医大生、治療の依頼、手紙。今、日本はどこもこしこもごった返しだ…本作は市川崑が和田夏十と協同執筆した脚本で監督した川口浩主演の一九五七年製作作品で、この度DVDボックスを購入して再鑑賞したが面白い。冒頭からすし詰め状態(満員)の人々のショットで始まるのと都会のクラクションやバイクのエンジン音が鳴り響くカット割りの連発が面白い。やぱ、市川は川口の事好きだよな、多くの作品の主演を務めている。この映画の脇役かなりの役者が揃っていて凄い。 船越英二、川崎敬三、杉村春子、笠智衆など。

さて、物語は大学を卒業した民雄は駱駝麦酒に入社し、尼崎へ赴任。父から母の様子が変だと知らされ、医大生に治療を依頼するが…と簡単に説明するとこんな感じで、ストレス社会を満員電車と言う空間で捉えた風刺コメディーで、公開当時映画漫画と呼ばれた市川崑の漫画チックな社会風刺作として有名である。実際物語に出てくるのは哀れな人々たち。同僚は結核で倒れてしまうし、ストレスで髪の毛は真っ白になってしまう…両親は発狂する挙句の果てに戦後日本のサラリーマン事情は最悪、ストレスで身が今にも滅びそうだ。そういった物語を先取りしたかのようにブットんだギャグの連続に終始観客は爆笑させる。これまた川口浩の同僚役の船越英二が素晴らしい芝居を見せてくれている。


この作品冒頭の明治、大正、昭和の恒例行事を映した後に野外で雨が降ってる中、黒い傘をさしながら大勢の人々が演説を聞いているファースト・ショットで始まるのだが、非常に圧倒的な映像である。黒い傘のうごめく姿が強烈なインパクトを冒頭から与える。そしてタイトルバックの満員電車が現れる。ここは卒業式であり、記念撮影するところも傘を閉じてくださいと言いびしょ濡れながら写真を撮る始末。そんで黒い傘をさした数十人の学生たちが門から出て行く後ろ姿も蠢く…。やっぱり川口浩の学生服はめちゃくちゃ似合う。学ランて男前にするな役者を。

市川崑と言う作家は同じような作品を作らないのが特徴の一つである。それは大島渚にも見られる現象だが、実際は大映の人々とのやり取りでこうなっている部分はあると思うが、この作品の社会風刺喜劇は個人的には面白く感じる。だがDVDのジャケットやポスターもしくはパッケージの有名なキスシーンが映画ではあっけなく写ってしまうのがちょっと残念である。もうちょっと盛り上がりがあっていい感じの雰囲気であのキス場面があると思っていたので、ちょっぴり残念ではあるが、当時の人で溢れる日本で青年が希望を持って就職と恋愛と結婚と言う様々な問題を描きつつ、うろうろしながら満員電車に乗る生活を描いたのは見事である。
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