ろ

波止場のろのレビュー・感想・評価

波止場(1954年製作の映画)
5.0

「人を信じないのね」
「ここでは自分だけだ。生きるためにはな」

波止場で荷役をする元ボクサーのテリー。
ある夜、思いがけず友人の死に関与してしまう。
誰が彼を殺したかすぐに悟るテリーだが、波止場を牛耳るギャングの片棒を担ぐ兄を想うと密告することができない。
やがて亡くなった友人の妹イディや不正を明かそうと奔走する神父と関わるうち心が揺れるテリーだったが・・・

夜更けにアパートの屋上から転落。
荷捌き中に、大量のウイスキーボトルが降ってきて下敷きに。
全員に仕事を与えないどころか組合費をぼったくるギャングのボス。
彼の不正を告発しようとした人々は次々と不審な死を遂げる。
「何も言うな。命が危ないぜ。それが波止場の知恵っていうものさ」
目の前で仲間が殺されても、黙って見届けるしかない労働者たち。
そんな彼らに、祈りを捧げに来た神父が叫ぶ。
「ジョーイが証言を封じられたのも、デューガンが証言する前日に殺されたのも、みんな十字架だ。不正を知りながら黙って見過ごす者は、キリストに槍を刺されたローマ兵と同罪なのだ」
卵を投げられ、空き缶をぶつけられ、コートは汚れ、額に血がにじむ。それでも神父は続ける。
「毎朝、就業の札が配られるとき、キリストは君らとともに並び、この不正を見ておられる。キリストは彼らをどう思われるか、人々の賃金をかすめ美服をまとい、指にはダイヤ!常に不正と闘ったキリストは諸君の沈黙をどう思われるだろうか!」

プロボクサー時代から八百長に加担させられてきたテリーだが、金や肩書きへの執着がなかった。ただ肉親を殺された恨みが彼を突き動かし、証言台に立たせた。けれど人々の心を動かしたのは、彼が話す真実ではなかった。彼が直接ボスに抗議するのを目の当たりにし、彼の心の声を聞き、ギャングたちに打ちのめされだらだらと血を流しながら桟橋に横たわる姿を見てようやく頭をあげ、これまで目を背け続けてきた真実と向き合う。

ダウン寸前のボクサーさながら、視界はぐるんと一周。よろめきながらテリーは波止場の入口を目指す。
正義を奮い立たせたのは、金でも神でもない。
怒りと執念で仕事を勝ち取ったテリーに、後ろから歓声の追い風が吹く。
ろ