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ビースト 獣の日のhorahukiのレビュー・感想・評価

ビースト 獣の日(1995年製作の映画)
4.1
クリスマスに悪魔が復活する!

そんなとんでもないことに気づいてしまった神父。阻止するために復活場所を突き止めよう!→その場所を探るために悪魔に接触したい!→罪を犯せば悪魔に近づける!というトンデモ理論を思いついた神父さんがクリスマスの街で悪行を繰り広げるコメディホラー。スペインの巨匠イグレシア監督の長編2作目。

12月はクリスマス⑥

俗世に染まらず、聖ヨハネの黙示録の予言を解読することに人生を費やしてきた敬虔なクリスチャン(テレビも見たことない笑)なので悪いことがわからずにしょーもないことばかりする神父さんが可愛い。ホームレスへのお恵みを強奪することから始まり、死にかけの人に「地獄に落ちろ」と耳打ちし、パントマイマーを押し倒す。その途中で、ヘビメタ好きのデブ・ホセと胡散臭い超常現象番組の司会者・カヴァンが加わり、3人のイカレたメンバーで悪魔復活を阻止するために奔走するというドタバタ喜劇。

カヴァンは番組やってるだけあってそれなりに知識があって、処女の血とか色々集めて悪魔召喚をみんなで試みる。この入り口でLSDをかますというのが面白くて、実際に悪魔的な事柄が起こるのだけど、それが現実なのか3人がラリってるだけなのかは最後まで不明。ラリってるだけだとしたらこの3人はテロリストレベルでヤバイ奴に見え方が変わってくるという😂信念が強ければ強いほど屈折すれば狂人化する…の良い例で、犯罪行為の連続を平気でやっていう3バカが楽しい。

3人による悪魔打倒の裏では、マドリード浄化という名のもとにギャングが市民を無差別に殺害する事件が進行しているだけど、最終的にそれを悪魔と同化させるところに意図が見いだせるのが面白い。監督によれば、マドリード浄化は実際に起こった事件というわけではないものの、マドリードではギャングがホームレスを殺そうとすることが良く起こるらしく、そこから着想を得ているらしい。こういったファシスト的存在を反キリスト(=悪魔)と同視し、打ち倒そうとする神父たちというのは非常に象徴的に映る。

最終的な決戦の舞台となるのは当時まだ建設中だったプエルタ・デ・エウローパ。物質的発展の象徴ともいえるポストモダンな巨大建築物を悪魔にとっての基点(教会)として描き、プエルタ・デ・エウローパ完成後の未来に見いだせる「発展」への憂いのようなものを滲ませている。そしてクリスマスを愛すると同時に憎み、人生の人工性が最も明らかになる時だと語る監督がクリスマスに舞台設定してるのも興味深い。

更にはメディアによる洗脳と盲目的に踊らされる人々への嘆きまでも盛り込んでいる。本作の胡散臭い超常番組は国民に大人気でみんな信じてる。その番組にはイタリアの某有名人の写真が飾られている。調べると90年代はこの某有名人さんの会社がスペインの某放送局に多額の出資(25%らしい)をし影響力を行使していた時期らしく、それに対する監督の批判的な姿勢も感じ取れる。

表面上アホコメディでめちゃくちゃ笑えて面白いんだけど、至る所に風刺が散りばめられた面白い作品でした。前に見た『スガラムルディの魔女』は当時あんまりハマらなかったんだけど、今みたら面白く感じるかも!
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