ガンギマリポテト

ロレンツォのオイル/命の詩のガンギマリポテトのレビュー・感想・評価

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これは、スゲェ映画だ...実話ベースだとは。

けど、滅茶苦茶丁寧なエクスキューズが必須で、手放しに褒めて良い内容ではない。民間療法を成功させた夫妻が、運良く信じられないほど理知的な人たちで、想像を絶するタフネスで理性と経済力を保ち、科学に基づかない民間療法や宗教に脱線しなかった結果上手く行った、本当にごく稀な成功譚(実際には夫妻が死に物狂いで発見したオイルでさえ、その科学的実証性に関してはその後様々な紆余曲折があったそうだ)。
ましてや、コロナ禍の反知性主義や反ワクチンのムーヴメントを目の当たりにした後に観ると...とてもじゃないが、信用できる人にしか薦められない。

本作を鑑賞した人は後日譚に関してリサーチすることが絶対に必要。それがこの映画を観た人に課される責任、義務と断言しても良い。何なら、後日譚の方が映画らしいドラマがあるけれど、”医学“という人体の中にある自然を、映画、ないしは物語/ナラティヴで語ることの限界を感じるところもある。映画でもドラマでも小説でも、拾い切れるコンテクストの量に限界がある。

だからこそ、アカデミズムが超・大事。図書館のアーカイヴがなきゃ何も始まらない。
同時に、合理性を問わない犠牲、即ちケアの倫理についての話でもある。この映画の一番の悪役を敢えて挙げるとするなら、医者ではなく”学問“も”ケア“もどちらも追い込んでいるレーガノミクス、新自由主義のはずだ。

本作の公開から30年以上経ってなお、「稼げる大学」「稼げる図書館」だとかほざく輩が支持され、憎しみを煽るポピュリストや金の亡者ばかりが力をつけていっている。このままでは行き着く未来は、ロレンツォが自由に生きられる世界なんてもってのほか、人々が知性も理性も捨て去り、狂気だけが残されたデス・ロードだろう。