風に立つライオン

キング・コングの風に立つライオンのレビュー・感想・評価

キング・コング(1933年製作の映画)
4.0
 1933年制作、メリアン•C・クーパー、アーネスト・ B・シュードサック監督による怪物映画の傑作である。

 まだ、「怪獣」という言葉やアニマル・パニック・ムービーというジャンルすら存在していなかった時代、当時のハリウッドの特撮技術を最大限に駆使して制作された。
 今観ても充分に鑑賞に耐え得る見事な出来栄えと言っていい作品である。
 とは言え最新版のCG満載のコング映画と比せば膨大な時間を費やしストップモーション技術で作成されてはいたもののその映像は稚拙の誹りを免れるものではない質感である。
 しかしながらそれは可愛いそうであるしルール違反でもある。
 本編で使われた可愛らしい動きをするこの技法はかつてアルゴ探検隊シリーズやシンドバッドシリーズなどで充分楽しませてくれたレイ・ハリーハウゼンなどを経て熟成し、近年ではこの技法に円熟味を加えたフィル・ティペットが「スター・ウォーズ」で活躍、かのスピルバーグ監督に「私の人生に必要な人」とまで言わしめた特撮の巨匠ではあったが「ジュラシックパーク」に至ってCG時代の到来により絶滅危惧種となってしまった歴史がある。
 ではあるがどっこいディズニーでは今でもお馴染みだし生き残って重宝がられているのが実際である。
 あのギレルモ・デル・トロ監督に至っては「師匠にして神」とまで呼ぶフィル・ティペット監督の制作30年に及ぶライフワークたる新作「マッドゴッド」がこの年末に公開される予定にもなっている。
 なんだかプロモーションみたくなってしまったがそうなんです。

 こうして考えてみればこの技法はフィル・ティペット氏に至るまで優に100年近く世代を超え楽しませているのであり、経年により更に緻密さとリアル感を増しているのは事実なのである。
 
 こうしたキャリアに鑑み、むしろその稚拙さを愛でるぐらいの度量を以ってこの名作を鑑賞したいものである。

 とりわけ本編は冒険や探検心から来る好奇への刺激やコングの18メートルという設定から醸し出されるスペクタクル感とダイナミズム、ハラハラドキドキ感を増嵩させるスリルとサスペンス、そして大自然を侮ると猛烈な反撃を食らうといった「ウルトラQ」的メタファーとして人を掴んで投げ飛ばし、噛み殺し、踏み潰すホラー的要素も加わって正に面白い映画が内包しているであろう要素が網羅されていると言っていい作品である。

 かくして本作はその後の映画に与えた影響は絶大なものであったのである。

 その後の怪物映画で勘違いをしたとすれば、怖さやダイナミズムを煽る為、漸次巨大化していったことである。
 高層ビルと同じ背丈にすると逆に稚拙感が増し、スペクタクル感が減衰することが分からなかったのかもしれない。
 身の丈18メートルというサイズ感はかえってスペクタクル感やダイナミズムが醸し出されてくるし、邦画の「大魔神」などが何よりもそのことを端的に説明している。
 そうムキになって語る話でもないがそう思っている。

 リバイバルではあったがかつてTVでこの映画を観た少年時代、
 こんなに大きなゴリラがいるんだと深刻になり、その後何回か夢でうなされたこともあった。
 純真・無垢な年頃でもあったのだ。
 それほど真に迫ったコングであったし、稚拙な動きが気にならず古い映画のせいだと思い込んでいた。
 そして複葉機とコングの戦いは絵になるが、ジェット戦闘機は無理があるとも感じていた。

 そう言えば、いつだったか「ジュラシック・パーク」を観た少し童返りに入ったお婆さんが「この島の人たちは大変だねえ」と呟いたとかいう話しを聞いたことがある。
 
 SF鑑賞に於ける禁句は「こんな事あるわけねェーだろ!」である。
 とりあえず、素直に身を委ねることで数倍も面白く鑑賞できるのだ。
 悪夢をみる少年やいっちゃった老人は無意識のうちにそれを体現しているのだろう。
 
 兎にも角にも本作が90年前に創られたものであることを差し引いても映画というエンターテイメント性が充満している作品であることは間違いないし、かえってアナログの良ささへ感じ取れる作品で時代の先端を行く象徴として建築されたエンパイヤステートビルを舞台にアメリカハリウッドの底力を見せつける作品になっているとも思えるのである。