Mikiyoshi1986

召使のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

召使(1963年製作の映画)
4.2
本日1月14日はジョゼフ・ロージー監督の生誕108周年!

彼の作品の中でもとりわけ傑作の呼び名が高い本作は、貴族の男トニーが召使ヒューゴによって精神的に取り込まれる構図を丁寧に描写し、イギリス特有の階級社会を逆説的に風刺したロージーの代表作。
ハリウッドで横行した赤狩りにより、イギリスに亡命した共産党員ロージーの「格差」への並々ならぬ憤怒が込められています。

劇中で花瓶に生けられた花はセクシャリティや性的主導権を暗示させ、婚約者スーザンが配置した花瓶は遠近法でちょうどトニーの胯間の部分に。
それをヒューゴが移動させようとしてスーザンに咎められる演出など、本作にはあらゆる暗喩が端々に込められているのも魅力のひとつ。
レストランでの何気ない風景にも同性愛と主従関係の暗示が垣間見えます。

計算し尽された流れるようなカメラワークは秀逸で、多用される鏡の演出も印象的だし、
蛇口から滴り落ちる水滴音→時計音→電話のベルの流れは特に素晴らしい。

またヒューゴの妹ベラがボルトン、母親がマンチェスターに在住するくだりが登場しますが、
偶然にも私、学生時代にマンチェスターの大学に留学し、しかも隣街ボルトンでホームステイをしていた経験があります。
あの辺りは20世紀前半まで産業都市として発展し、労働者階級の人々が多く住む地域。
しかし戦後の不景気で徐々に衰退していき、本作が制作された当時はその反動で多くの失業者が溢れた時代でした。
一方、舞台のロンドンでは貴族が先祖代々築いた土地や産業の不労収入、つまり労働者からの搾取で何不自由ない生活を送る毎日。
そうした背景は当時の民衆に強い共感を与えたのではないでしょうか。

最も抽象的なメタファーが込められたラストはなんとなくブニュエルの「ビリディアナ」みたいな後味を想起しますが、
元々本作の脚本家で後のノーベル文学賞作家でもあるハロルド・ピンターは黎明期にブニュエル映画に強い影響を受けており、
この耽美的なシュールさは確かにそれらに起因する所も大きいように思えます。
Mikiyoshi1986

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