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密告のRのレビュー・感想・評価

密告(1943年製作の映画)
4.7
1回目見たときは内容があまり頭に入って来なかったので2日連続で見ました。かなりややこしい話な上、テンポがめちゃくちゃ速い。また、最初から一気に多くの重要人物が出て来て、名前と顔と肩書きとを一致させるのが難しい。いやーまいった。1回目は正直ぜんぜん楽しめなかった! が! 大体の流れを掴んだうえで見た2回目は、え! こんなに面白いの! と驚きの連続! 面白いってか、めちゃくちゃ不気味。怖い。じわじわ心を蝕んでいく得体の知れない怖さ。舞台はフランスのどこにでもありそうな小さな村。産婦人科医のジェルマンは、精神科医の爺さんの若奥様ローラにちょっと気があるのかな? ないのかな? いや、ないよね、ってときに、ありもしない二人の不倫を暴露する匿名の手紙がローラに届き、同様の手紙が村の様々な人に届き始める。最初はただの悪戯だろうと誰もさほど気に留めなかった。だが、中傷のターゲットがジェルマンのみならず病院の院長や政治家など権力者に広がり、汚職を暴露する内容が書かれてて、その中にいくらかの真実もあるようで、ジェルマンを村から追い出さなければ汚職を公表するぞ、といった脅迫文も。皆の心がだんだんと翳り、いったい誰が犯人なのかと疑心暗鬼になり始める。やがて村社会に集団パラノイアが広まり、ヒートアップしていく様子は大変に不気味。ジェルマンが脚に障害のある患者ドニーズとついつい肉体関係を持ってしまったり、がんと知らされていないがん患者が謎の手紙で自分の癌を知って自殺したり、と様々なことが起こっている間に、手紙の差出人はあの人なのではないか、この人ではないか、と憶測が飛び交い、疑惑が高まりに高まる。そして遂に爆発!のシーンの悪夢的なビジョンはすごい!!! 傾いたカメラで歪んだ街を走る女、告発する民衆のざわめき、破壊された家の内部……全身鳥肌が立つほどに恐ろしい。その前後も、棺桶を飾る花束から落ちる手紙、教会を舞い落ちる手紙など、サイレント期のホラー映画みたいなゾッとするイメージが連続したあと、遂に、ジェルマンは犯人の実質的な手がかりを見つける!…と思われたのだが……! うわーこわいこわいこわいこわいこわい。誰を信じればいいのか分からない、誰も彼も怪しく、もはや誰も信じられない。じわじわと人の心を毒してゆく最も恐ろしい闇、それは、不信。そして、ラスト、黒い衣服を纏ってテッコテッコと通りを遠ざかるカラスのような老女の姿に、全身戦慄が走りました。こんな悪夢みたいな映画、そうそうお目にかかれないと思います。1回目はとっつきにくいけど、是非二回続けて見ていただきたい。ハネケの大傑作、白いリボンを濃厚に髣髴させる部分があったりするので、白いリボン的映画が好きな人にはとりわけオススメしたい。
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