櫻イミト

ジャッカルの日の櫻イミトのレビュー・感想・評価

ジャッカルの日(1973年製作の映画)
4.0
巨匠ジンネマン監督によるドキュメンタリータッチのポリティカル・スリラー。原作は英作家フレデリック・フォーサイスの同題ベストセラー小説(1971)。

1960年代フランス。シャルル・ド・ゴール大統領暗殺を企てる武装組織が雇ったプロの暗殺者”ジャッカル”と、暗殺を阻止しようとするフランス警察ルベル警視の追跡を描く。。。

見逃していた名作を閣下殿のご指摘で思い出して鑑賞。

序盤の銃撃テロシーンが非常にリアルで、開幕にあたり本作の演出方針を宣誓しているかのよう。緊張感を誘う劇伴も手伝ってあっという間に引き込まれていくが、驚くべきは劇伴がかかるのは最初の5分程だけで後はエンドロールまで一切かからないこと。それが気にならないどころか劇伴がない事でドキュメンタリー的な緊張感が持続していく。例えれば蕎麦の名店で水蕎麦を提供するのと同じで相当な実力と自信がなければ破綻してしまう。本作ではジンネマン監督の職人技をたっぷりと堪能させてもらった。

本作のアイコンとも言える“特注狙撃銃”をはじめ、ジャッカルと警察の行動が具体的かつ詳細に描き込まれている。そのデティールの積み重ねの末にクライマックスへと至るのだが、なぜこれほどまでに引き込まれたのだろうか。今回は映画にのめりこんで観たため演出の仕組みなどを客観的に捉えることは出来なかった。再見した時に注視しして観ようと思う。

キャスティングはヨーロッパの俳優にこだわりハリウッドの大物は避けたとのこと。私が知っている役者もチョイ役で登場するデルフィーヌ・セイリグだけだった。この方針もドキュメンタリー的な演出に一役買っていたと思う(興行的に大成功に至らなかった要因ともされている)。フィルム・ノワール作品にもドキュメンタリー・タッチなスリラーやサスペンスが数々あった。本作はその路線をアップデートして極めた大成功作と言えるだろう。

唯一、ジャッカルの徒手空拳による殺人術だけが超常的で、違和感ではなく良いアクセントになっていた。

※冒頭に映し出される特殊な形の十字架はド・ゴールの記念碑ともなっている“ロレーヌ十字”。
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