ひゅうどんこ

あ・うんのひゅうどんこのネタバレレビュー・内容・結末

あ・うん(1989年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

 15年以上の友との縁をばっさり断ち切った話を告白しよう。
私にとって本作は、自分の身の上に決して目を背けることが出来ない映画だからだ。

映画批評をしているものと開いてしまった方はそっ閉じスルーを推奨します。

また、我が身の器の小ささを白状することになるので、失望して去ってゆかれるもご自由に。


 彼との出会いは1997年4月、名前はMaくん(仮名)。

田舎を捨てて出てきた関西のとある工場、同じ寮で半年一緒に過ごした。

九州のグループ、名古屋近郊のグループ、近畿各県のグループなど、大体仲良しグループは出身別で固まっていたけど、私とMaくんのいるグループには何故か職場も出身も関係無かった。

半年間の契約が満了し、私は他で半年働いた後に一人暮らしを始めた。
その後半年ほどして彼が転がり込んできた。
。と言っても、家賃光熱費は欠かさず半分入れてくれた。

部屋は歪つな四畳半、そこに男二人である。
当時夜職もしていたが、店の客や女の子達には、2人が完全に出来上がっていると思われていた。
そんな日々は2年近く続いた。

 やがて彼が別の階に移り住み、私はのちに所帯を持つことになる相方と出会って彼女の部屋に転がり込んだりしていたのだが、彼が自分の彼女と同棲を始めた。
そしてトントンと話は進み、彼らは結婚するということで、私は仕事を探しているMaくんに、うちの相方の職場はどうかと提案し、彼は相方の部下となった。

 Maくんは大泉洋に似ている。天パ以外顔は似ていないのだが、雰囲気やユーモアのセンスがそっくりで、人を惹きつけるトークが抜群な上、おしゃれで頭もよく、人の機微を察するのが恐ろしいほど上手かった。
私はいつもドラえもんに助けを乞うのび太の如く、彼の声に耳を傾けた。

うちに家族が増え、相方が仕事を辞めたあと、相方が何年かかっても取れなかった資格を彼はあっさり取得し、事業所を変わるとともに現場から事務方に移った。
そこで彼の状況が一変する。

職場での精神の崩壊からの離職と離婚が同時に来てしまう。
細かな実例は省くが、かなり重度であったから、落ち着くまでに時間がかかり、その間うちの家族は、出来得る限りのサポートをした。

彼は家族以上の存在となった。

度重なることへの恩義を感じてか、うちへの訪問時は、珍しいスイーツなどの手土産を欠かすことはなく、実家に帰ればその土産、正月には娘にお年玉、私には服やCDなど、相方には仕事の最新情報から喜びそうな与太話まで持ってくる、、、うちの家族にとって、何より心待ちにする王子様となるのは必然だった。

Maくんからの電話、Maくんの訪問に、相方の声が上ずり娘も大喜び。

私はその状況が次第に疎ましく感じるようになっていた。
彼の対人能力の高さや、相方の喜ぶ顔が女の顔に見え、嫉妬していたのだ。
「うちをどないする気やねん」

そしてある夏、うちの家族とMaくんの4人で釣りと海水浴に出かけた日、事態は起こってしまった。

私の不注意でクルマのキーを海に落としてしまい、JAFを呼ぶことになった時、相方に激しくなじられた。その時彼は妻の肩を持ったのである。

その一件以来、彼は家に来なくなった。
連絡も年賀状のやり取りもなくなった。

私は人に対して凄い剣幕で怒鳴ることなどはないのだが、妻と彼に何か言ってはいけない言葉を吐いたのではないかと思う。覚えていないのだ。

ただ、玄関先のよく見えるところに、向田邦子の『あ・うん』をわざと置いていたことだけは憶えている。


水田は、愚鈍で裏心を持てない。
門倉は、水田夫人たみへの好感を隠しもしないが、彼女への思慕を出すことはない。
たみは、門倉の秘かな思いを嬉しく思いつつ、妻として母としての今を幸福に思う。
さと子は、3人の愛情を一身に受けて、母として巣立つ。

私は門倉もたみもさと子もいっぺんに失ってしまった。
せめて彼が、門倉のように思い切り突き放してくれていたら、、とも思った。

そんな器の小ささを晒した私でも、今までと変わりなく付き合ってくれますか。

依存と期待の果てになくしたものは大きい。