櫻イミト

黒蘭の女の櫻イミトのレビュー・感想・評価

黒蘭の女(1938年製作の映画)
3.5
”モノクロの「風と共に去りぬ」(翌1939)”と称される、ベティ・デイヴィスの2度目のアカデミー主演女優賞受賞作。監督はウィリアム・ワイラー。原題の「 JEZEBEL:イゼベル」は旧約聖書列王記に登場する女性の名前で”悪女”の代名詞。原作は1933年の同名戯曲。

南北戦争直前の1850年代ニューオーリンズ。若くして名家を継いだジュリー(ベティ・デイヴィス)は、伯母に甘やかされて育てられ気が強くわがままな娘だった。銀行家のブレストン(ヘンリー・フォンダ)との婚約発表をする舞踏会の夜。未婚女性は白いドレスを着る慣習に逆らって、ジュリーは真っ赤なドレスを着ていくと言い張り混乱を引き起こす。。。

前時代の差別と偏見が残る南部アメリカにあって、自己主張を憚らない女性の生き様をシビアなタッチで描きあげていて見応えがあった。

序盤、これまで観た事が無かった上流階級お嬢役のベティ・デイヴィス(当時29歳)が新鮮。プライド高く強気な中に脆さを秘めた複雑な女性像を抜群の存在感で演じていた。後半、街を黄熱病が襲ったことが大きなきっかけになり、わがまま→不安定→無償の愛へと変化していく。南部を舞台に愛する男との関係の中で成長を遂げる女性譚は、確かに「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラを想起したが、本作のジュリーのほうがクセが強くリアルに感じられた。

ワイラー監督の演出は重厚で印象深い映像が多々あった。前半の山場である舞踏会、白いドレスの女性たちの中心を赤いドレスの主人公が延々と踊る構図は映画的特性を極めた名シーンだった。後半では、自分の失言から男同士の決闘を引き起こした主人公が場を取り繕うために黒人奴隷たちを集めて歌うシーンが印象深い。南部の時代遅れの慣習と主人公の破綻が合わせて表現されていた。

邦題の「黒蘭」は登場せず原題の「イゼベル」とも関りはない。恐らくは赤いドレスがモノクロでは黒に見えるので、そこからイメージを膨らませたものと思われる。

「風と共に去りぬ」の前年に類似した内容の本作が公開されていたのは知らなかった。原作も同小説は1936年発表なので、こちらの戯曲の方が3年早い。新たな時代の女性像を示した名作映画としても史上に記録されるべき一本だと思う。

※決闘シーンの演出は助監督に着いていたジョン・ヒューストン。
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