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わるい仲間のCINEMASAのレビュー・感想・評価

わるい仲間(1963年製作の映画)
3.5
 ユスターシュの妻ジャネット・ドゥロが秘書として働いていた映画批評誌『カイエ・デュ・シネマ』の編集オフィスにあった金庫から盗んだ金によって製作されたという伝説があるらしい。

 本作は、ジャネット・ドゥロが見舞われた災難=ユスターシュと喧嘩して街へ出たドゥロに、武骨な二人組に付き纏って迷惑だったという体験にに基づいて構想された。

【舞台はパリ。本作の主人公は品位に掛けたタフガイ気取りの青年二人組。自堕落な生活を送る彼らは、街を彷徨する中で知り合った女性を口説くが、一向になびいてくれないために苛立ち、腹いせにダンスホールで彼女の財布を盗む。ダンスホールを飛び抜けて街を疾走し、中に入っていた金を分配する二人。しかし、その財布の中には二人の男性の写真も入っていた。「これ、想い出の品だろう。金だけ抜いて返してやるか…… なら警察にとっても微罪だから大した事にはならないよ」と二人組の片割れが提案するに至る】というスジ。

 ただ、それだけの話だ。盛り上がりも何もない。ただ、財布を盗んでダンスホールから飛び出し、街を疾走する二人をロングで撮ったシーンが実に躍動に満ちており、ハっとさせられた。ここにはシネマ・ヴェリテの影響も見られる。音楽は排され、同時録音に拘ってもおり、そこにはネオドキュメンタリズムの香りも立ち上る。本当に些細な、どうということはないドラマを描いているが、全編が映画らしさに満ちており、なんとも新鮮な映画体験であった。

 それにしても、盗んだ金で、女性から財布を盗む映画を撮るってのは大胆と言えば大胆だねえ。
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