アニマル泉

わるい仲間のアニマル泉のレビュー・感想・評価

わるい仲間(1963年製作の映画)
4.5
ジャン・ユスターシュの処女作。妻のジャネット・ドゥロがカイエ・デュ・シネマの秘書をしていて金庫から金を盗んで制作したという伝説がある。須藤健太郎の評伝によれば、ロメールが「モンソーのパン屋の女の子」の未使用のフィルムを提供したという話もある。企画はジャネットに実際にあったエピソードに基づいて作られたらしい。
「ナンパ」と「泥棒」の物語だ。ユスターシュらしい主題がすでに幾つか見られる。
「並ぶこと」ジャクソン(アリスティド・ドメニコ)とバルダミュ(ダニエル・パール)は並ぶと安定する。冒頭のピンボールの場面は入れ違いに並ぶ二人をひたすらカメラはパンする。盤面を一切見せない画面の切取り感も独特だ。二人はダンスホールでもカフェでもとにかく並んで座る。向き合っては座らない。ラストカットの鏡の中の二人も並んで終わる。「並ぶ」なかで頻出するのが「並んで歩く」場面だ。とにかくよく並んで歩く。そして歩きながらよく喋る。延々と歩いて喋る。ユスターシュにとって会話は歩きながらするべきもののようだ。ジャクソンが若い女性(ドミニク・ジェール)をナンパするのも並んで歩きながらだし、バルダミュも加わって三人が並んで歩くのが本作のマスターショットになる。三人という設定は「ママと娼婦」で女2人と男1人の逆の形に変奏されてゆく。
「反復」もユスターシュの主題だ。ダンスホールでジャクソンとバルダミュは若い女性を口説き落とそうとするが、同じ男に3回反復して踊りに横取りされてしまうのが可笑しい。「反復」はユスターシュの十八番の主題となっていく。
ユスターシュの移動感もみずみずしい。2人が財布を盗んで坂道を駆け降りてくる、階段を駆け降りる、下り道を疾走する。今まで溜めていたエネルギーが一挙に爆発する、スピードと躍動が溢れる素晴らしいショットだ。
2人が乗るスクーターも面白い。ユスターシュはスクーターや自転車の二人乗り、三人乗りを好む。自動車ではない。「前後に並ぶ」主題もユスターシュ作品で進化していく。
ユスターシュは劇伴奏が無い。本作は珍しくアコーディオンの甘美な劇伴奏が流れる。
白黒スタンダード 16㎜ 39分。
アニマル泉

アニマル泉