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信子のzhenli13のレビュー・感想・評価

信子(1940年製作の映画)
4.0
若き高峰三枝子の美しさに終始見惚れる映画。彼女の見事な三日月眉に何の淀みもなく弧を連ねる鼻梁に、ブランクーシ「眠れるミューズ」を思い出しながら観ていた。正直、教師の評価は風貌の好さだけで数割増しだと思う。しかしその風貌のなかにその人自身の面白さが透けてくるかどうかを、教壇の下の生徒たちは見ている。見ようとしなくたって見えてくる。高峰三枝子演ずる信子にはそれがある。斜にかぶった帽子とトレンチコートで置屋の横丁に現れる信子。訳あり女かと口を開けば素朴な田舎訛り。国語教師として赴任したのに体操をもたされ溌剌と号令をかけ、英語の先生の代替で授業の質問にもすらすら答える信子先生はさりげなくスキルも高い。

獅子文六の同名原作、キャッチーで端的なタイトルはさもありなん。権威主義・事勿れ主義をよしとせず悪いものは悪いと憤然と生徒にむかう先生というプロットはその後の学園ドラマにおいて嫌というほど採用されるが、清水宏は自立して生きようとする女性や職業差別をほのぼのと包みこむように描く。(木下恵介『女の園』の科白で説明させるくどくどしさとは一線を画すように思う。) 陰湿さは無く、女学生同士も面と向かって批判したりする。

ハイキングのシークエンスは清水宏監督の本領である。居なくなった穎子を探して山間で女学生たちが「ほそかわさ〜ん」「えいこさ〜ん」と呼び続けるシーンがやけに長く(二度目の校内捜索でも)まるで『ピクニックatハンギングロック』のように、美しい高峰三枝子と女学生たちの刹那のときがそのまま山の中に吸い込まれていきそうだ。
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