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オリーブの林をぬけてのwigglingのレビュー・感想・評価

オリーブの林をぬけて(1994年製作の映画)
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ジグザグ道三部作の三作目。『そして人生はつづく』の1シーン、地震の翌日に結婚式を挙げたカップルの撮影風景が舞台になっている。
『そして...』はドキュメンターを装ったフィクション映画、そのメイキングの体裁をとる本作はまたしてもフィクション。入れ子構造に混乱しつつも、この自由すぎる発想の一途で感動的なラブストーリーに心を奪われてしまう。

『そして...』ではさりげなく描かれていたシーンが、実はリテイクに次ぐリテイクで大変な撮影だった。そのカップルの男性ホセインは実生活において、相手の女性タヘレに求婚しフラれたのだ。それ以来タヘレはホセインを無視し続けているせいで、演技していてもセリフを発することができない。
オイオイとも思うけど、素人俳優を使う事の苦労話でもあるのかなと。

すでにフラれてるにも関わらず、劇中ではタヘレの夫であるホセインは現実と役柄を混同しさらなる猛アタックを開始する。撮影が終わり村へ帰るタヘレの後を追いながら愛を伝え続けるホセイン。タヘレは無視を決め込み一言もしゃべらない。

オリーブの林を抜け草原のジグザグ道を通る二人を追う超ロングショットと超長回しがとにかく圧巻。ふたりが点になるまで映し続けるんだけど、終盤である変化が起きます。カメラが遠いからそれが何を意味するのかはわからない。タヘレが折れて受け入れられたのか、あるいは徹底的に拒絶されたのか。でも、これを観ている誰もが前者を確信するというマジックが起きるんですね。

ここで描かれる話自体も本当にあった事なのかはよくわからない。撮影中にそんなエピソードを聞いたキアロスタミが作り出した物語なのかも。この現実と映画との境界が溶け出したかのような独特の語り口に眩暈を覚えます。

こんなに狂ってるのに観終えた後には優しい気分に満たされている。そこがキアロスタミの特別さの所以かと。
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