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アイズ ワイド シャットのryosukeのレビュー・感想・評価

アイズ ワイド シャット(1999年製作の映画)
3.6
 夫婦喧嘩の最中、ニコール・キッドマンが体を折り曲げ、苦しそうにしながら迫真の笑い声を響かせた後、ふと、その横顔に恐るべき不敵な表情を浮かべながら、内心における裏切りについて語り始める。ゾッとするクローズアップ。そして、深淵を見つめるような顔で、眉ひとつ動かさずに彼女を見つめ続けるトム・クルーズの顔がキッドマンの怖さを増幅していく。
 この演技合戦には緊張感があり、ある程度期待できたのだが、あまりにテンポが悪いせいで次第に焦れてくる。結局キューブリックとしては珍しい駄作だという世評通りだなという感想になってしまった。長尺であるせいでより悪い。例えば、円形に女たちを配置した儀式の異常な冗長さが典型だが、その他の会話劇でも、適切な省略がなされていないシーンがダラダラと連なる印象であり、儀式の場で聞いた不穏なピアノの音もだんだんとしつこく響くようになってしまう。
 スキンヘッドの男が一定の距離を保って尾行してくるロングショットは厭な画を作るセンスを感じた。寒色と暖色のコントラストが画面内で常に強調されるのだが、ビルとアリスの電話のシーンで、売春婦の家にいるビル側の暖色と、アリスが待つ家の寒色の極端な対比によって裏切りが際立つのも面白い。くるくると回転するカメラが目眩く空間を紡ぎ出すパーティー会場で、女たちがビルに「虹のふもと」に向かっていると告げる。妙なセリフだなと思っていると、中盤に「レインボー」貸衣装店が登場し、運命に導かれている印象が生じる。『イカゲーム』の仮面のVIPたちが女を侍らせる描写の元ネタは本作にあったんだな。
 大風呂敷は結局畳まれず、“fuck”の一言でぷつんと途切れるラストは、映画史に残る下品なハッピーエンド?といった趣で面白かった。
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