コーカサス

他人の顔のコーカサスのレビュー・感想・評価

他人の顔(1966年製作の映画)
4.7
事故で顔面に大怪我を負った男 (仲代)が精巧な“仮面”を作り、別の人間になりすまし、ついには妻 (京)を誘惑する。

監督は勅使河原宏、原作・脚本は安部公房による「失踪三部作」(『砂の女』『燃えつきた地図』」)の2作目にあたる傑作だ。

勅使河原といえば、東京芸大在学中より安部と知り合い、共に前衛芸術運動「世紀」に参加し、安部の原作である『おとし穴』で映画監督となり、その後も先に記した「失踪三部作」で次々と安部の原作を映画化してきた。

彼ら作家と監督という関係性は、言語と映像、是即ち安部のイメージを、いかに勅使河原が上手く処理し、表現するかによるもので、そのシュールで独特な映像美は本作でも遺憾なく発揮されている。

そして何より磯崎新によるレオナルド・ダ・ヴィンチの「ウィトルウィウス的人体図」や三木富雄の「耳」が設置された無機質で透明で非現実的な診療所のインテリアデザインが素晴らしい。

「僕の画は記号」と唱えた手塚治虫の【漫画記号論】をなぞるなら、私たちひとりひとりの顔も、“自分が自分であること”を意味するアイデンティティーであると同時に、主体あるいは主観が対象を明確に把握するための“記号”と云ってよい。
だがそれは時として元素記号にもなり、組み合わせにいかんでは、いかなる化学反応を起こし、悲惨な末路を辿るか…《他人の顔》になりすました男が嫌というほど教えてくれる。

168 2022