櫻イミト

明治天皇と日露大戦争の櫻イミトのレビュー・感想・評価

明治天皇と日露大戦争(1957年製作の映画)
4.0
「千と千尋の神隠し」(2001)に抜かれるまで日本の観客動員数歴代1位(2000万人動員)。新東宝”明治天皇三部作”の一本目。監督は生粋の右翼として知られた渡辺邦男。天皇誕生日の4月29日公開。

日露戦争の経緯から、旅順港封鎖、203高地、日本海海戦、大勝利の提灯行列までを、明治天皇(嵐寛寿郎)の姿勢と御製(和歌)を織り込みながら描く。

日本人の太平洋戦争に至る心の経緯を掴もうと、遡って明治の戦争史劇を鑑賞。

究極の右翼映画だった。冒頭は明治神宮のカット、皇居に君が代が流れ主役たる明治天皇が登場する。演ずるのは“鞍馬天狗”こと嵐寛寿郎であり、放たれるオーラは圧倒的な正義と慈悲だ。

御前会議に並ぶのは元老・伊藤博文、陸軍大将・乃木希典、海軍大将・東郷平八郎など偉人とされる人々(人名字幕が出ないので解り辛い)。明治天皇は戦争回避の意を示すが、やがて国会と国民の声を考慮し開戦を決断する。

「軍人が政治に口を出してはならぬ」と軍を諫めつつ、戦争犠牲者の報に涙を流し「この戦争は絶対に勝たねば国民に済まぬぞ」と決意を口にする明治天皇。その描かれ方は、時代劇で共感を呼ぶ名将主君と同様だ。本作のフォーマットや価値観はチャンバラ映画と似ている。

実際、日露戦争のリーダーたちは江戸時代に思春期を迎えた人々だ。洋服を着ているので錯覚しそうになるが、根っこの価値観は江戸時代に培われ“戦”に対する考え方も違う。デモクラシーも社会主義も全く無かった時代なのだ。その価値観のまま戦争に勝利しアジアに領土拡大していった結果が太平洋戦戦争に結びついている。

敗戦から12年目に、右翼プロパンダ映画のような本作が2000万人動員のヒットとなったのは興味深い。日本で二番目のシネスコ映画であり実物大の戦艦セットや戦闘シーンのエキストラ数は大規模で見応えはあった。しかしそれ以上に、ラストの戦争大勝利の国民パレードに被るナレーションの異様さが、戦後日本人の秘めた心情を大いにくすぐったであろうことは想像に難くない。

「明治天皇を中心に全国民一致団結の熱誠によって、この大戦は奇跡的に勝利を持って終わり、それまで一島国であった日本は、一躍世界列強の間に伍するに至った。今こそ我々は日本民族の誇りと力を合わせて、今後の世界平和の発展の為に貢献すべきであろう!」

■日本の対外国戦争メモ
1894(明27)日清戦争~1895
1904(明37)日露戦争~1905
1910(明43)韓国併合
1914(大3)第一次世界大戦~1918 
1918(大7)米騒動・大正デモクラシー
1931(昭6)満州事変
1937(昭12)日中戦争~1945
1941(昭16)太平洋戦争~1945
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