horahuki

夜の悪魔のhorahukiのレビュー・感想・評価

夜の悪魔(1943年製作の映画)
3.9
不死となり怪物となるか
人間として限りある生を生きるか

めちゃ面白くてビックリ!
見る前はロンチェイニーJr.のドラキュラに若干不安感を覚えてたんだけど、なかなかイケてるビジュアルで「カッコイイじゃん!」ってなった。

本作はユニバーサルによるドラキュラシリーズ3作目。『魔人ドラキュラ』『女ドラキュラ』ともに吸血鬼の脅威をメインに描いていましたが、ここに来てドラキュラを人の本質を炙り出すための駒のように扱い、冒頭に書いた「人間としての在り方」を問う力作に仕上げていました。

今作では主人公ケイが婚約者フランクとの結婚直前に、ドラキュラという「魔」の誘惑によって心を奪われてしまったがための悲劇といった感じの内容。前半ではケイとドラキュラとの関係性を少しずつ描き出し、後半ではフランクを通して表層の物語の奥底に観念的な内面の戦いを炙り出すような作風となっていました。

本作の面白いのはやはりクライマックスで、ドラキュラを滅ぼしケイと一緒になろうとするフランクを警察が追うという物語となっていくのですが、表面的に捉えるとフランクは何も悪いことをしようとしてるわけではないんです。でも警察が必死になって彼を追う。

ケイとドラキュラ、そしてフランクと警察。この四者をそれぞれの事柄を象徴する駒として配置し、人間は「人間」として生きるべきなのだという、甘美な誘惑の前では消え入りそうなほどに弱々しいけども決して目を逸らしてはならない根源的な信念をかけた深層部分での人としての戦いを見せつけてくる。だからこそ、警察や博士たちはフランクを追う…というより「人」である以上は追わなければならないのです。

複雑な感情がごちゃ混ぜになりつつも、人が「人」であろうとする、辛いけれども覚悟を感じられるラストの彼の表情はあまりにも熱くてウルっときました。

ドラキュラそのものは残念ながらあんまり見せ場はないのですが、ドラキュラという禁断の果実を前にした人の醜さと心の弱さが強烈に描かれた面白い作品だと思いました。

沼の底から徐々に浮かび上がるように現れる棺とか、不自然な動きをする白い煙から現れるドラキュラとか、カッコイイシーンが盛りだくさんで見どころがめちゃ多かったです。背後からマントを広げたドラキュラを捉えたかと思ったらコウモリへと瞬時に姿を変えるとこや、切り取られた空間のあちら側で具現化するドラキュラとか鳥肌もののカッコ良さ!

そういった技術的なところには感動しましたが、やはり映像演出的にはブラウニングの『魔人ドラキュラ』には敵わないな〜って思いました。今作はちょっと安く感じちゃう。とはいえ、私はめちゃ好きです!
horahuki

horahuki