針

友だちのうちはどこ?の針のネタバレレビュー・内容・結末

友だちのうちはどこ?(1987年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

観たのは2022年7月1日。最近キアロスタミ付いてきたのでむかし日記に書いた感想を手なおしして転記しました。

「間違って持ってきてしまったノートを返すために友だちの家を探しに行く」という単純な筋書きの上で展開される、かなり技巧的な作品という印象でした。「大人はわかってくれない」ならぬ「大人は聞いてくれない」で、日々の仕事や自分の事情、狭小なコドモ観にとらわれて主人公の話を全然聞いてくれない大人たちの姿を子どもの視点から見つめていくというお話。
洗濯の水音や家畜の鳴き声といった生活の中の「音」というものが、ノートを返さないといけない主人公の切迫感に対してかなりノイジーなものとして置かれていて、イヤでも主人公に感情移入させられます。
唯一親身に話を聞いてくれるのは時代の変化に取り残され、なかばドロップアウトしている老人だけというのも象徴的。最終的に友だちの家は見つからず、自分が友だちの分まで宿題をやって翌日持っていくというオチが面白いです。
終盤、宿題をやっている主人公の後ろで庭に面したドアが風で開き、夜中になってもまだ洗濯物の片付けをしている母親の姿が映し出されることで、仕事に追いまくられる大人たちにも単純には割り切れない事情があることが暗に語られる感じ。そしてラストの学校のシーンで、子どもたちもまた日々の労働に追われて満足に宿題もできないという現状が示唆されるけど、主人公のストーリー自体はなんとか穏当な着地を見ます。純文学的な香りのする小さな寓話。おそらく作品全体の意図は、こうした大人たちに象徴されるような社会への批判だったんだろうと思うんだけど、そうした社会的背景を抜きにしてもけっこう面白く観られる映画だと思いました。好きですねー。
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