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お嬢さんのcyphのレビュー・感想・評価

お嬢さん(1961年製作の映画)
4.5
若尾文子マラソンの続きとして若尾文子フォロワーの友だちがDVD貸してくれた、感謝 めくるめくロマンスのハッピーエンドこと《結婚》のその先をアイロニカルに描くコメディ ポップさとじめっとさが常に両立していて原作読んでないけど確かにこれは三島由紀夫の描くコメディ、三島由紀夫の描く「お嬢さん」だ!とうれしくなった クローズドに拗れもつれた相関図があっけらかんとした偶然によってツルツルっと解決する爽快感や、洋服のカラーコーディネートで関係性を導いていくおしゃれテクニックなど和製ロメールの向きもあってこんなんがいちばん好きですわ、となる

自分の知らない世界を器用に生きてきた不良のプレイボーイだから惹かれるのも、だから結婚後疑心暗鬼の渦に落ちて苦しむ羽目になるのも超自分事映画で苦しく最高!となった 漠然とした不安感がある日突然ひとりの女の顔してアパートを訪れる心地とか、姉の疑惑が実は最後まで晴れない余白とかもたまらない じめっとした嫌さはまあまあの強度で続くけど若尾文子とその女友だちの絶妙なバランス感覚でどこか喜劇の様相を残したまま展開していくのも楽しい そうでなくても「お嫁さん」のコスプレと言わんばかりにせっせと料理本片手に台所に立つ若尾文子の絵としての魅力よ(ジャケも最高) 「顔がぽてぽてしてかわいい」推しこと若尾文子のために書いたかすみがこんな風に息を吹き込まれてよかったね、という三島に向けてのニッコリもある

川口浩のちょうどいいリアルなプレイボーイ感もよかった ただの無害ないい人に見えてシャンパンを開けるのが上手すぎる父の部下よ 『最高殊勲夫人』から2年後に結婚のその先をふたりが演じるのも出来すぎてていい 結婚観を揺さぶるため結婚を策略の道具にするいたいけな若い男女たちのままならない情動よ ちなみにもちろん子どもを身ごもったとてその後の夫婦生活にハッピーエンドが続いていくとは限らないので、カタチだけのハッピーエンドによる空疎な幸福感と共に物語をなあなあに終えるという点でミニー&モスコウィッツとも近い

三島本人による本小説のテーマ説明
「その趣旨からいふと、今度の小説のはうが、映画的ハッピイ・エンドの先を書くといふ点で、徹底してゐる筈だ。一人の青年を、はじめから自分の結婚の相手として考へ、結婚して、さアそれから、といふ小説だからだ。現代人の、結婚といふものに対する妙な考へ、イヤに実際的かと思ふとイヤにロマンチックな考へ、さういふものがいかに人生から復讐されなければならないか、といふテーマは、いはば、現代人の結婚観の諷刺ともいへるだらう。この女主人公は、ずいぶん変つてゐるか、変つてゐるのは彼女一人だけではないのである。」
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