一人旅

王様の映画の一人旅のレビュー・感想・評価

王様の映画(1986年製作の映画)
4.0
第43回ヴェネチア国際映画祭新人賞。
カルロス・ソリン監督作。

歴史映画の撮影に臨む映画監督ダビの姿を描いたドラマ。

アルゼンチン製作の異色ドラマで、19世紀半ばの南米を舞台にした歴史映画を撮影するためパタゴニアの荒野にやってきた映画監督ダビが、度重なるトラブルに見舞われ撮影が思い通りにいかず四苦八苦する...という“映画監督の苦しみ”を描いた逸品。“映画を撮った映画”と言えば、フェリーニの『8 1/2』、トリュフォーの『映画に愛をこめて アメリカの夜』、ゴダールの『軽蔑』『パッション』、タヴィアーニの『グッドモーニング・バビロン!』、ヴェンダースの『ことの次第』『リスボン物語』など傑作揃いだが(ゴダールだけは理解し難いですが...)、本作もその知名度こそ低いものの、映画監督の苦しみ(+映画への情熱)を独創的な映像・演出で映し出す。

映画監督ダビを襲う数々の災難。
たとえば...
・スポンサーがトンズラしたため資金が底を突く
・ロケ地で宿泊するための金がないので、孤児院に身を寄せる
・その辺でテキトーにスカウトした素人を大胆起用
・ギャラを払えないので、出演者がどんどん逃げていく
・製作者間の人間関係がギクシャクする
・エキストラが足りないのでマネキンで代用する
など、スポンサーが逃げたことをきっかけに資金繰りが悪化。金の不足がさまざまな災難を誘発し、撮影に燃えるダビを少しずつ追い詰めていく。

映画の撮影に苦慮する現実と、南米の王様を主人公にした映画。厳しい撮影の現実から映画のワンシーンへとシームレスに繋がっていく不思議。映画と現実がない交ぜにされた風景がユニークで、映画の中の王様が裏切りに遭い失望するシーンと、映画監督ダビが撮影の中で孤立していく姿がシンクロする、巧妙さ。
フェリーニ風に巨体の娼婦が躍動するシーンや、荒野に何体ものマネキンが立ち並ぶ光景など、シュールで幻想的な映像も魅力だ。

映画の撮影が全然思うようにいかない...という映画製作ウラ話だが、悲壮感はずいぶん薄い。基本的に七転び八起きの精神で、“なんとかなるさ”的楽観思考で映画完成目指して奮闘する。何より、映画監督のリアルな悩み・苦しみ以上に、映画に対する飽くなき情熱がそこにはある。映画への愛と情熱が込められたラストシーンが印象的で、最後に見せるダビの笑顔に気分は晴れやか。後味がいい。
一人旅

一人旅