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股旅のtackyのレビュー・感想・評価

股旅(1973年製作の映画)
4.5
「あっしには関わりのねぇ事でござんす。」
市川崑のTVドラマ「木枯し紋次郎」は、今までの時代劇と打って変わって、絶対に人に関わらない事で生き抜く渡世人の物語だったが、人間関係のしがらみに疲れた人々に絶大な評価を得た。
しかし本当の渡世人はどう生きていたのかというと、とてもめんどくさい渡世の義理に縛られた世界で生きていた。

この全く真逆な状況を、市川監督は、リアルな作品として作りたかったのだが、商業的に東宝ではできないので、ATG+崑プロで制作したのである。

紋次郎は賭場で稼ぎ、金の無い時は野宿する。この作品の3人は、いく先々の博徒に仁義を切って世話になるので、飯と宿の心配は無いが、一宿一飯の義理のため、時には命も捨てねばならない。
この仁義を切るところから、世話になる組の為に出入りの助っ人に立つところまでが、へっぴり腰の殺陣といい、とてもリアルで驚くほど素晴らしかった。

そして、そのあとその義理の為に、僅かの旅銭と引き換えに実の父親を殺したり、どこの組につくかで殺し合いしたりで、やがてその先は野垂れ死にしかない。

どうしようもない渡世人の世界を、枯野のうら寒い風景をバックに、突き放した演出で観せる、素晴らしい作品である。

「東京オリンピック」や「犬神家の一族」と同じ監督かと思えるほど、細かいディテールにこだわった作品である。
職人監督としても、芸術監督としても、市川崑は素晴らしい監督である。
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