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ウェンディ&ルーシーのツクヨミのレビュー・感想・評価

ウェンディ&ルーシー(2008年製作の映画)
5.0
現代田舎アメリカの現実に喘ぐ放浪者の姿をあるがまま捉え.横移動カメラがキマりまくったライカート節。
ケリー・ライカート監督作品。けっこう前に見たライカート作品の中でも1番好きだった今作がまたまたリバイバルされてたので見に行ってみた。
まず本作はアラスカへ向かう放浪者ウェンディとその飼い犬ルーシーの物語だ、たまたま停泊したオレゴン州の田舎町で逸れてしまう現実をロベールブレッソンみたいなあるがままな視点で紡いでいくのみ。
いやはやなんと痛烈なストーリーか、たまたま停泊した田舎町で車が故障.あんまお金無いからと万引きしたら案の定逮捕.逮捕され数時間留置されてた間に愛犬ルーシーが失踪しトラブル続きになっていく展開はやはりライカートが愛してやまないバーバラローデン"WANDA"を想起する。家から出て家族と疎遠で愛犬ルーシーだけが心の支えだったのに、そんなルーシーと逸れてしまうことであっという間に孤独な放浪者になってしまう現実、これまでアメリカのリアルを描き続けてきたライカートが貧困者に襲いかかるようなテイスト。だがあくまでお涙頂戴テイストではあらず、これがリアルなアメリカの姿だと啓示するのみのインディーズ感がたまらない。
エンドロールの楽曲以外既成曲は無いのに何故こうも胸を打つのだろうか今作は、"WANDA"と同じくどんどん追い詰められ孤独になっていく彼女の姿にやはり感情移入してしまうエモーショナルさよ。暗い小山で謎の暴漢に襲われそうになりめちゃくちゃ走って逃げて公衆トイレで咽び泣くシークエンスの大感情爆発.やっと見つけたルーシーだが一緒には連れていけないと悟り別れる切な終わりなどなど号泣必死な場面になすすべない残酷さはヴァルダの"冬の旅"も同じか。
あと横移動ショットが相変わらずキマりまくってる、オープニングのウェンディとルーシーが楽しそうに歩くワンショットや暗闇で横移動ショットを繋いでいく一連の編集、ラストの列車から見た森の景色とかも素晴らしくシネマティック。それと横になっているウェンディや車のボンネットに座って悩む姿など孤独を象徴する美ショットがたくさんで映像的にも好きだなー本作。明らかにライカート版"WANDA"としか言いようがないんだが、逃れようにも田舎町に囚われグルグルする放浪話が作家性になるライカート作品の中でもやっぱりトップクラスに好きだと再確認できた。
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