ぴろもーど

ドリームチャイルドのぴろもーどのレビュー・感想・評価

ドリームチャイルド(1985年製作の映画)
4.0
1985年に制作されたこの作品。
不思議の国のアリス好きには堪らない。まず入手する事に苦労しました。ネットを介して、1万5千円で入手することができました。そしてそれだけの価値、いやもしくはそれ以上に価値のある作品。

不思議の国のアリスの物語自体は何度となく、ディズニーや舞台でリメイクされてきました。その著者であるルイスキャロル(ドジソン)やアリスに焦点を当てた映画というだけでも感激なのですが、何より、不思議の国の冒険が誕生した《金いろの昼下がり》を映像化されている点にはもう感激なんて言葉以上の想いで監督のギャヴィン・ミラーに感謝。

ちなみに、制作には『スター・ウォーズ エピソード3』を手掛けたリッヌマッカラム、そして『ひと月の夏』のケニストロッドが携わりました。

1932年『不思議の国のアリス』のモデル、アリス・ハーグイブス夫人は、作者ルイス・キャロルの生誕100年祭に招かれ、新たな不思議の国のNYを訪れます。これはあの《金いろの昼下がり》から70年後のお話。ルイスキャロル(ドジソン)は30年以上にも亡くなっており、夫にも先立たれ、2人の息子も世界第一次対戦で戦死。アリス・ハーグイブス夫人自身も死期が近い事を自覚している寂しい境遇にあります。しかもこの頃のNYといえば不況に陥っており狂騒的なジャズエイジ。時代のギャップを丁寧に再現した衣装や背景も見所の一つですね。

そんなアリス・ハーグイブス夫人の元へあの『不思議の国のアリス』のモデルとなったという事実を取材しよう記者が押し掛けます。
夫人は、周囲から執拗にルイスキャロル(ドジソン)の事を語るよう迫られ、今まで忘れていた70年前の思い出、ルイスキャロルとの交流について振り返るようになります。
簡潔にいうと今作は、このアリス・ハーグイブス夫人を忠実に基づいて描きながら、同時にもう今はいないルイスキャロル(ドジソン)、そして失われたあの時の『彼女自身』の昼さがりを探すフィクションの旅のお話なわけです。


ストーリーは現実と回想、そして童話の世界を行き来するのですが、これがまた絶妙。そしてこの回想シーンにもトリックがあります。
彼女自身の記憶の中には存在しないはずの、ルイスキャロルからの視点からも映像が取られているんです。
背中を向けて夏の日差しの中へと歩み去る少女のロングショットは、ルイスキャロル(ドジソン)の想いを結晶化したかのように切なくとても印象的です。彼女は過去の時間を、70年という時を経てやっと別の角度から見直すことが出来るようになっていたんです。

そうして、夫人は最後に思い出します。
少女であったアリスがルイスキャロル(ドジソン)に愛されていたことを『知っていた』ということを。

ラストのコロンビア大学でのキャロル生誕100年祭のスピーチ内では、時を超え再び彼と向き合います。
こうして『アリスを巡る旅』を終えた夫人。最初にあったグリフォンのいる浜辺に戻ってきます。幸福感をたたえながらも残酷なこのシーン。鑑賞後に色々と考えさせられますね。

さて、実在するアリス・プレザンス・リデルとその姉妹は19世紀社交界の華であり、純白のドレス姿は上級階級の証ともいえます。父のリデル教授は貴族の血を引きオクスフォード大の学寮長という役職にあり、ドジソン教授はその中でも一目置かれるオクスフォードの数学講師。三姉妹の中の次女であるアリスは三姉妹の中でもかなり特別で、ヴィクトリア女王の息子レオポナルド王子との噂もあります。
ドジソン(ルイスキャロル)に関しては様々な説があります。
30歳すぎのドジソンが13歳頃のアリスに求婚したという話もありますが、これは証拠がないそうで。ノンセンス文学の出版で名声を得る前の彼は年収もリデル教授の6分の1以下であるし、求婚できるような身分にはなかったようです。結局彼は生涯独身でした。『キャロルはペドフィル』という内気の女の子だけに心を開くロリコンであったという話も根拠はありません。ドジソン家が大英博物館へ寄贈した彼の日記や銀行口座の記録によると、男女問わず大人とも普通によると付き合いがあり堅実な人柄が伺えます。子供が好きというのは確かではあるようですが、文通相手は20歳前後の女性が多かったようです。
最近では、ドジソンのプロフィールに色々と修正された点が見受けられるのでもはや何が事実で何がこじつけであるのかは明確ではありませんね。ただ、個人的にはこじつけであったとしても、それが妙に納得のいくものであったりと色々な解釈と色々な可能性のひとつとして楽しめるので、やはりこの『不思議の国のアリス』は面白い。

今作でルイスキャロル(ドジソン)を演じるのは、イアンホルム。アリスへの純粋な愛を示す表情はとても切なくさせられました。主役である2人のアリスを演じるキャストさん達もイメージ通り。そのうえ、不思議の国のキャラクター達も、『セサミストリート』の生みの親である、ジムベンソンが創り上げられ、作品にとてもいい味を出してくれています。イメージは原作に近い仕上がり。原作好きの私には堪らない。