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笛吹川のkuuのレビュー・感想・評価

笛吹川(1960年製作の映画)
3.5
『笛吹川』
製作年 1960年。
上映時間 117分。

深沢七郎の同名小説を木下恵介が脚色、着色笑して監督した時代劇。
戦国時代を舞台にしているものの、武将や合戦が中心ではなく、市井の人々を取り上げた異色作となっている。
モノクロ映像に着色したパートカラーについては評価が分かれるやろなぁ。

甲斐国の笛吹橋のたもとに住む百姓のおじいは、孫の半蔵が合戦で手柄を立て、お屋形様である武田信虎のお役に立てたと大喜び。
おじいはお屋形様の子の後産を埋める大役を仰せつかるが、御胞衣を血で汚し斬られてしまう。
半蔵も戦で討ち死に、ミツは嫁ぎ先で焼き討ちにあうなど、次々と武田家に命を奪われていく。
これは、ある農民の一家が、優秀な兵士、さらには将軍になるまでを描いた物語である。
そのうちの一人が、敵の大将を捕らえて絶賛されて帰ってきた晩に始まる。
その夜、彼の甥が生まれ、また地元の大名の息子も生まれる。
農夫は成長するにつれ、妻を得ることで出征しないよう説得され、息子や娘を授かり。。。
家族の他の男たちが出征して死に、女たちは町に移り、狂い、誰もが『虫取り』と呼ぶ家の外には笛吹川が流れているのだから。

カラーではなくモノクロで撮影されてる今作品。色合いやトーン、エアブラシで描いた雲のように画面の一部を彩るゲルなどで、色がぶち抜かれている。
舞台は戦国やし、こうした色彩の飛翔は古い絵巻物を彷彿させる意図があるのかな。
しかし、それは戦いの最中やその直後のこと。
農民だけで、誰も死なないときは多くが白黒。
所々に色は入ってる場面が見受けられたけど、中でも幽霊の婆さんはオドオドロしい色合いやった🥺怖い。
ガキの時に観てたらトラウマ級。
こないなヤリキリでストレートな映画を作って、銭を稼げる時代は邦画にもロマンがあるな。
その上、技術も伴ってるし評価はわかれたとて個人的には観入った。
木下監督の常連のカメラマン楠田浩之って云うだけあって、あの広い画面をどう埋めるかを心得ているし巧い。
侍のシークエンスは黒澤作品と同じようにうまく撮られているが、今作品のシークエンスには黒澤の威厳とユーモアが欠けているのは否めない。
黒澤の侍はアホかもしれへんけど、常に高貴に見える。
黒澤作品には、今作品のような足の不自由な親は登場せず、まるで馬のように足早に歩いて息子に帰ってくるように懇願しているようなイメージがある。
焼死の苦しみを味わわないために自害する侍もいなければ、坊主が平然と座っていることもない。
しかし、今作品の描きかたもある面ではリアルと云やぁリアル。
この当時の兵の多くは、半農半兵で一領具足(いちりょうぐそく)と呼ばれてる兵がほとんど。
一領具足は、戦国時代、兵農分離前の武装農民や地侍を対象に編成・運用した半農半兵の兵士および組織の呼称。
彼らは平時には田畑を耕し、農民として生活をしているが、領主からの動員がかかると、一領(ひとそろい)の具足(武器・鎧)を携えて、直ちに召集に応じることを期待されていた。
突然の召集に素早く応じられるように、農作業をしている時も、常に槍と鎧を田畑の傍らに置いていたため、一領具足と呼称されてたそうやし、多くは自分達の土地で土をいじって生活してる。
今作品のように、将に、当時の武田軍の多くが土臭く生活してた人達やろし、リアルでもある。
戦国時代は、小説・ドラマ・映画などで数多に描かれてる。
また、教科書でも、『学習漫画 日本の歴史』でも詳しく学べる。
せや、それはいずれも勝てば官軍側の英雄伝説であり、歴史学習やった。
たしかに、日本の歴史の流れを決定する重要な意味は多大にあるとは思う。
せやけど今作品はそないな華やかしい戦国の表舞台を描いてへん。
合戦に家族を供出する百姓・庶民の村が舞台となってた裏と呼んでもええかな。
無常観、苦い思い、救われない思いエトセトラ。
戦の裏には必ずこないな悲しき気持ちはある。
どないな戦争でも裏には必ず無常観、苦い思い、救われない思いエトセトラが伴う。
そう云う意味では今作品のストーリーはとても興味を惹くし、個人的には面白かった。 
また、画面がきれいにぬけてもいた。
ここはかなり気合いを入れてることは窺える。
しかし、映画の三原則の最後、動作は正直イマイチやったかな。
戦争裏話ってのをを描けば必ず反戦・厭戦ものになる。
どうしてもうしろメタファになりがち。
その、代わり映えのしないもの脱却するのに
色をつけるってテクニックを使ったんかな。
個人的にはこれ要るんか?レベルやけど。
あと、キャラの声を聞きやすくしてほしかった。
『笛吹川』のタイトルが気になってはいたが、映画のどこにも笛吹川に込めた経緯場面がなかった(気が付かないだけやろけど)。
笛吹川を調べたら山梨県に有る川やし、今作品のお話の背景と一致する。
作中出てくる橋がかかったあの川の名前なんやろな。
名前の由来があるんかなって、検索重ねたら『笛吹川伝説』って意味深なのがヒットした。
和夕布子の歌手?
誰やねんこのマダムは。
調べるの邪魔くさいし、笛吹川の由来なんか作中でちょっと触れて欲しかったかなぁ。
まぁ今作品は戦争の悲惨さを批判的に訴えるちゅうよりも、それも人間の愚かさの一つやと冷徹に見据えてる作品やし、じっくりガッツリ時間に余裕有るときに画面にかじりついてみる善き作品かな。
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