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ジャンパーのトルーパーcomのレビュー・感想・評価

ジャンパー(2008年製作の映画)
4.0

#ジャンパー
ヘイデンクリステンセン主演/悪役にサミュエルLジャクソンという、スターウォーズEP3のリベンジマッチ。
巷では微妙の声も聞こえなくはないけれど、公開初日に観に行った、思い入れのある映画です。アリオ蘇我のxyzシネマズ(現Tジョイ)で観た。

監督をしたダグ・リーマン監督の新作『カオス・ウォーキング』(2021)公開タイミングで久々に観賞。
上映時間もコンパクトで疾走感のある良作。

『ボーン・アイデンティティ』(2002)、『バリー・シール』(2017)『カオス・ウォーキング』
リーマン監督の映画って逃亡する主人公を怖い人たちが延々と追いかけてくる系の話が多い気がする。

本作はメイス・ウィンドウが延々とアナキンスカイウォーカーを追いかけてくる映画です。


■ストーリー
15歳の少年デヴィッドは、同級生のいじめにより氷の張った川へ転落。
溺れて水死寸前の彼は空間を瞬間移動する「ジャンプ」能力に覚醒する。

超能力を得て「ジャンパー」となった彼は、世界旅行も窃盗もやりたい放題の人生を満喫していたが、
ある日ジャンパー抹殺を目論む謎の組織が彼を追ってきて...的な話。


映画自体も88分と短い本作。冒頭の能力獲得のくだりは余計な説明がなくコンパクトで◎。

円盤の音声解説にて「ジャンパーの生き方に沿った作風にしたかった」と語ったリーマン監督。
世界の名所に次々と瞬時に移動できる彼の能力がとにかく楽しい作品なので、能力の由来とかそういう細かいことは全部すっ飛ばしてさっさと楽しい絵を始めるテンポ感が素晴らしい。

能力を得たあの日以来、実に10年ぶりにヒロインと対面したというのに、再会を喜ぶ絵もろくに見せず次の瞬間には即2人でイタリア旅行に出かけるテンポ感。

リーマン監督いわく「ジャンパーは前置きなどしない」。映画は主人公ジャンパーのペースで進んでいるのだ。


■東京ロケ
「本作はある意味旅映画だからロケが大事だった」とリーマン監督。
次から次へと瞬時に世界中へジャンプできる主人公の姿を描くため、実に世界15カ所でロケが敢行された。

TVCMで、ヘイデンが「東京でロケをしたので観てね」みたいなこと言う日本版の予告編が流れていた記憶。

東京のシーンもけっこう長時間の尺が割かれており、都民なら誰もが通ったことのある東京メトロの地下道や、渋谷のスクランブル交差点を歩くヘイデンの姿が。
特に交通規制を敷いて大々的に撮影したわけではなく、ゲリラ的に撮ったシーンも多いとのこと。

円盤の音声解説でこの事実を知り「もしかしたら自分の隣をアナキン・スカイウォーカーが歩いていたかもしれないのか!??」と興奮した。



<以下、ネタバレあり>



■ヒーロー映画
本作はヒーロー映画である。
インタビュー等を見ても、製作陣が本作のキャラクター関係をヒーロー映画と捉えていることがよくわかる。

MCUの記念すべき第一作『アイアンマン』(2008)と同年公開なのは何かの偶然かはたまた必然か。

アイアンマンことトニー・スタークは自ら作り出したパワードスーツを正義のために使い「私がアイアンマンだ」と高らかに宣言したが、
本作の主人公デヴィッドは、思いがけず手にしたスーパーパワーを窃盗などの悪事に使って人生を謳歌したことで痛い目に合う。

映画的にはデヴィッドが主人公で、彼を抹殺しにくる組織は敵であるが、立ち位置だけみるとデヴィッドが悪役で組織が善玉ともいえる。

このヒーローとヴィランが逆転してるような構図なのが面白く、
悪事を働く主人公が、3年前(2005年)にシスの暗黒卿ダースベイダーになったばかりのヘイデン・クリステンセン、というキャスティングが実に絶妙である。

リーマン監督いわく「普通の人は超能力を得てもヒーローにはならない。能力を活かして人生を楽しむはずだ」

長きにわたるスーパーヒーロー映画のメインストリームMCUが走り出したまさに同じ年に、
アンチヒーロー的なキャラクターをアナキンが演じていたというのが最高に面白い。

序盤、悪人としての彼を描いたシーンとして、洪水?津波?で屋根の上に取り残されているニュースをTVで観ながら何もしないという姿が描かれる。

彼の能力なら人々を一瞬で助けることができるのに、彼はそんなことはせず、能力を悪事と快楽に費やしている。彼はまだヒーローではないということを絵だけで説明している。

当初の脚本で、このシーンは火事のニュースだったらしいが、
「火事を見捨てたら、観客はデヴィッドを見限る。ヒーローは火事の被害者は絶対に見捨てない」とのことで却下となったらしい。

たしかに、ヒーロー映画って火事現場で燃える建物の中から子供を助けるシーンが定番だよね。3.11を経験した我々日本人としては、じゃあ洪水避難民は見捨ててもいいのかという疑問はあるけども。


■コロッセオ
中盤のメインとなるイタリア/ローマのコロッセオ。
ローマ時代が舞台の歴史モノ映画は数多くあれど、現代のコロッセオ内で実際にロケをした映画はかなり珍しい気がする。

朝夕の45分ずつというわずかな時間帯しか撮影許可がおりなかったらしいけれど、やはりCGではなく現地の映像は圧巻で、圧倒的にスケール感のある絵が撮れている。

アクションシーンは、銃撃で柱が破壊されるシーン等はセットでの別撮りらしいが、バトルが始まる寸前の絵などは現地ロケで、スタジオ映像と組み合わせて編集しているとか。
ロケとセットがまったく見分けがつかないすばらしい編集。


■キャラクター

◆デヴィッド(ヘイデン・クリステンセン)
瞬時に空間移動できる能力者。

公開時、もちろん彼を目当てに観に行ったが、ビジュアル的/キャラクター的にスターウォーズEP2の頃のアナキンにちょっと近い印象で、
悪事を繰り返しながらもヒロインを守ろうとする彼の姿を見て「今なら(EP2の頃のキミなら)まだ引き返せるよ!」とか思いながら観ていた気がする。

終盤の頑張るデヴィッドも悪くはないが、むしろ序盤の悪いことばっかりしているデヴィッドの方が魅力的。
悪そうな顔でニヤつきながら、完全にアウトな銀行強盗をいともたやすく成し遂げるデヴィッドの姿と共に流れるゴキゲンなBGM。最高

15歳期の子役もヘイデンにけこう似てる子で演技も良かった。


◆ミリー(レイチェル・ビルソン)
実生活でもヘイデンと長らく交際していたことでスターウォーズ好きにもおなじみの彼女。

ミリーはなんの能力もない一般人なので、観客は彼女の視点で本作を観ることになる。
これは場面の見せ方において特に意識されていて、
世界中を自在に旅できるデヴィッドが、自分がゴロゴロするためにジャンプしたエジプトのスフィンクスはギャグ的にあっさりと映し出されるのに対し、

ミリーが長年行きたかったけれど簡単にはかなわなかったコロッセオは、しっかり尺をとって圧倒的な映像で画面に現れる。
普通の人が、アメリカからヨーロッパに移動するのって、一生に一度あるかないかの出来事なんだ、っていうことを再認識し観客はコロッセオに興奮する。

他方で、それをたやすく実現できるデヴィッドは、普通の人とは見えている世界が違うことの描き分けになっている。

ミリーに関して、リーマン監督の面白いコメントを1つ。
「ミリーがローマに着いてすぐホテルでデビットと寝るかどうか悩んだ。観客に軽い女と思われないか...
でも深く考えるのをやめた。舞台はローマで相手はヘイデン。普通の現代女性ならそうするに決まってる。観客も共感するだろう」

当時ヘイデンってハリウッド俳優の中でもかなりアイドル的(いい意味でも悪い意味でも)な存在で、頻繁に軽めの映画雑誌の表紙を飾っていたなあということを思いだします。


ちなみにミリー15歳時の子役は『チャーリーとチョコレート工場』(2005)でチューインガムをくちゃくちゃ噛んでたクソガキ ヴァイオレットを演じた子(アナソフィア・ロブ)。たった3年でけっこう大きくなってます。

この子の演技がかなりよくて、ミリーもデヴィッドもむしろ子役2人のシーンのほうが演技いいまである。


◆ローランド(サミュエルLジャクソン)
アナキンに腕を斬り落とされた恨み...ではないだろうが、メイス・ウィンドウことサミュエルが、安定のヤベー奴を演じてます。

風貌的にはジェダイマスターというよりも、MCUのニックフューリーに近い。
彼の属するパラディンという組織、MCUのS.H.I.E.L.Dよりも力を持っているのでは...?と思うくらい、法も警察も無視してやりたい放題で恐ろしい。追跡の仕掛けや武器も映画的に映える。

ある面では彼のやってることは正義感からくるヒーロー活動とも見える。
昔の007とか仮面ライダーの敵みたいに、悪いことをするために活動している悪の組織っていうのは本来おかしくて、
悪玉は彼らなりの正義があって行動しているっていうのは良かったと思う。現実世界でもそうですよね。


◆クリステン・スチュワート
デヴィッドの母親の今の娘としてカメオ出演。
いろいろ調べてもそういう情報は見つからなかったけれど、もしかしたら本作がヒットした場合は続編を作ろうとしていたのでは?と思ってしまいます。

デヴィッドの母親はパラディンで、母子は対立する存在だけれども、母は息子と戦うことはできない。
けれど、パラディンの娘なら彼女もまたパラディンとなるはずで、続編はヘイデンvsクリステンという超人気2大アイドル俳優の激突ですよ。

これはめちゃくちゃ盛り上がるし、コケたらコケたでネタとして散々擦られる伝説になりそう、なんて妄想しちゃいます。


◆マイケル・ルーカー
今回、本作を観たのがたぶん7-8年ぶりくらいだと思うんですが、なんと...デヴィッドの父親は...ヨンドゥだったんですよ!
いやGotG観てても、ヨンドゥがデヴィッドの親父だとはまったく気付かなかった。

まあそれくらい割と扱いとしては薄い役なんですが、画面に登場した瞬間「ウソでしょ!?」ってなった。
古い映画を観たときに、後のヒット作の演者が小さい役で出ているのってなんかお得感ありますね。



【スコア】
★4.0で。
サクッと観られる軽い映画だけれど、けっこう好きな映画です。
みんなFilmarksのスコア低すぎですよ(憤怒)全部オビワンのせいだ!

デヴィッドが家の冷蔵庫に、ジャンプした先で撮った各地の写真を貼りまくってる絵が大好きで、当時自分も真似して自宅の冷蔵庫にポストカードやらチェキやら無数に貼っていた想い出。

今回久々に観て、やっぱりヘイデンは悪そうな顔してるのが似合うなって改めて思いました。
個人的にいちばん好きなシーンは、小ジャンプで無駄にかっこよく車の助手席に飛び乗るシーンです。

あと、渋谷の角を曲がったらいきなり銀座になるの笑う。
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