天豆てんまめ

暗いところで待ち合わせの天豆てんまめのレビュー・感想・評価

暗いところで待ち合わせ(2006年製作の映画)
3.0
静かだけど、心に残る映画だ。10年前に劇場で観たが、心のある場所にひっそり居続けていた。

「追われている男が、目の見えない女性の家に、隠れ潜んでしまう」という、特異なシチュエーションのボーイミーツガールの物語。
全編に渡って緊張感が漲りつつ、ひっそり静寂に包まれるような映画。

主人公は2人。3年前に失明して暗闇の世界で生きるミチルは田中麗奈。
勤務先で陰湿ないじめに遭い、心の暗闇に迷うアキヒロは「藍色夏恋」に出ていたチェン・ボーリン。状況は違えど、孤独な2人がある事件をきっかけに、男が女の家に逃げ込み、出会う。

目の見えない彼女を演じる田中麗奈の透明感溢れる演技が素晴らしい。
そして、暗闇にうずくまる無言の彼(侵入者)との不思議なコミュニケーションが始まる。

家の中に微妙な人の気配を次第に感じ始め、やがて存在に気づき、そして、不思議な同居が始まっていく。この異様なプロセスを静寂の緊張感を維持し続けつつ、丹念にふたりの微妙な心の動き、変化を追っていくのが見事だ。

やがて彼らは、言葉ではなく感覚で互いの存在と思いやりを知り、少しずつ心を開いていく。観ているこちらの五感もビビッドになっていくよう。
何とも言えない空気感を漂わせる映画だが、せつない物語を描くのがうまい乙一の原作の空気をうまく表しているように思えた。

でもやっぱり一番は、盲目の女性を演じた田中麗奈の、心を見通すような眼差しが美しい。忘れられない。