Mikiyoshi1986

霧の波止場のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

霧の波止場(1938年製作の映画)
4.4
本日10月31日はフランス映画の礎を築いた巨匠中の巨匠マルセル・カルネ監督の没後21年目に当たります。
生きていれば今年で111歳。

カルネといえば日本ではやたらと代表作「天井桟敷の人々」ばかりが持て囃され、他は過小評価されている印象も受けますが、
彼の長編3作目にして出世作となった「霧の波止場」はWW2開戦前夜の、フランス全土に漂う"憤り"を見事に投影した名作であります。

舞台は濃い霧が立ち込める港町ル・アーブル。
植民地軍での兵役に嫌気がさした脱走兵ジャンをジャン・ギャバンが演じ、
養父の歪んだ感情に嫌気がさして家出してきた少女ネリーを昨年他界したミシェル・モルガンが好演。

波止場にポツンと店を構える酒場パナマには他にも人生に疲れ絶望を抱えた人々が集い、
周りを包む濃霧は、そんな疲弊したフランスの先行き見えぬ展望を象徴的に表しています。

囚われた現状からの脱出欲求が二人を強く結びつけ、ドラマチックなラブストーリーに仕立てるシナリオも極めて秀逸。

デビュー2年目のモルガンは当時17歳とは思えぬほどの色香を醸し出し、
一方のギャバンは当時34歳ながらも腕白ぶりとダンディズムを併せ持ち、男らしさを最大限に披露。
彼の強烈な平手打ちに抵抗できる者は恐らくいないでしょう。

前年のデュヴィヴィエ「望郷」とルノワール「大いなる幻影」、そしてカルネ「霧の波止場」はギャバンの代表作となり、
当時のフランスが抱える情念を発露した名優として、不動の地位を築くこととなります。

そして何よりも特筆したいのがジャンに助けられ、彼に付きまとう犬の名演技!
動物の本能で人間の真価を見極める姿は最初から最後まで目が離せません。

本作は脱走兵が主人公ということで当時の厳しい検閲を余儀なくされ、ナチス占領後のヴィシー政権においても戦意喪失の元凶だと批判されましたが、
ヴェネチア国際映画祭で監督賞、国内ではルイ・デリュック賞を見事受賞。

当時の不穏な雰囲気を上手くメロドラマに落とし込んだカルネの手腕と功績は、到底計り知れるものではありません。
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