MikiMickle

籠の中の乙女のMikiMickleのレビュー・感想・評価

籠の中の乙女(2009年製作の映画)
3.8
原題『Dogtooth』(犬歯)

オープニング。
謎の“例え方指南”テープを聴く3人の若者。
目隠しをされながらも普通に車の助手席に座る女性。
家に着いた彼女は、いつもの事のように、一家の息子と体の関係を結ぶ。金銭目的で…

そんな所からこの物語は始まる。

ギリシャ郊外の裕福な広い家に住む一家5人。
もう成人とも言える子供3人は、外の世界を全く知らないまま生きている。親によって、外の世界が恐ろしいものだと教え込まれているからだ…

とにかく、異様。その一言だ。
よくわからないまま、物語は進んでいくが、少しずつこの一家の生活が、淡々とわかってくる。
異様さが……

高い塀に囲まれた閉ざされた家ですくすくと幸せそうに育つ兄弟たちは、体は大人なものの、純粋で心は子供のままだ。している遊びなどに見える無邪気さが、逆に不気味である。

白を基調とした家は光が差し込み明るいが、そこに無機質さも感じ、表面的な明るさを感じる。
両親によって作り上げられた虚構の世界。

前述した“例え方指南”も、外の世界を子供らに知らせないように、興味を持たせないようにするための策略であるのだ。

そして、長男の性の捌け口として連れてこられているクリスティーンが、その歪みすぎているにもかかわらず虚構によって保たれているこの一家の均衡を、少しずつ崩していくことになる……
彼女が家に持ち込んだものや話す事、それらが外の世界への興味を抱かせていく……

暴力的表現はあまりないものの、そこに恐ろしい残虐性を感じた。
歪んだ愛…

子供らにはそもそも名前がない。付けられていない。父が預けている“犬”に名前がないように……そこの部分でも、両親の歪んだ気持ちを察する事ができる。 

「どの家庭にもルールがある」と述べる監督。

監禁ものは数あれど、ここまでのものはなかなかないのではと思う。ホラー映画や、実話のものでも、大概は大人になってからの監禁である。『ザ・ルーム』の少年への植え付けられた価値観は、この映画に比べたらまだ…と思ってしまう。それが、“狂気”の“愛”ある家庭であるのだから。
それをこなす絶対的権力のある父も、単純な暴力での押し付けであるわけでもなく、試行錯誤があってのものである。完全に間違った正しい親心と、気持ち悪さと狂気を感じる…
そして、思春期というものも、深く関わる事である。

ネタバレになるのであまり言えないが、無機質な工場、飛行機の落下、飛行機のおもちゃ、光るカチューシャ、成績として集めるシール、シールのたくさん貼られたベッド、そこで行われる性行為、消ゴムつきえんぴつ、電話、数少ない娯楽のホームビデオ、それを暗記している子供、夕飯の正装、下着、猫、塀の外の兄弟、記念日の異様なダンス、プールの魚、犬、3回描かれる四つん這い…そして『ロッキー』と『ジョーズ』…様々な細かなものたちが、印象的に心に残った……

理不尽であり、悲劇であり、歪んだものというものは、時に笑いを産む。嫌悪感の中での、笑い。悲劇は喜劇と成りうる。笑ってはいけないのに笑ってしまうような…この映画はホラーではないが、そこにホラーと同じものを感じてならない。

ラストシーンは最も印象に残っている。目が釘付けになるほどのダンスからのラストに向けての衝撃的で怒濤の展開‼そして最後のカット……これは、見る人によって違うものだろう。逃れられない“呪縛”ととるのか、それからの解放ととるのか… ロッキーなのか、違うのか…

とにかく、曖昧な表現では伝えなれない。狂気ゆえの居心地の悪さと不気味さ、異様さ。それゆえの恐怖。最後まで息をのんで見てしまう、そして、ラストの余韻がいつまでも… そんな作品だった。
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