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スパイのRのレビュー・感想・評価

スパイ(1957年製作の映画)
4.5
フランスを代表するサスペンス映画の名匠クルーゾー。とはいえ、超有名な2作しか見たことなくて、いろいろ見てみたい願望が増してきております。本作はめちゃめちゃ変な映画やった。終盤に至るまで、雰囲気はサスペンスというより不条理劇。タイトルからスリリングなスパイアクション物を期待すると面食らうこと間違いなし。主人公はぜんぜんスパイなんかではありません。ただの精神病院の院長さん、マリク。ビジネスとしては貧窮してて、大変なときに、アメリカ情報局のハワード大佐に接近され、極秘でアレックスという男を貴方の病院に匿ったくれ。お礼に大金を支払おう、前金も払うよ。とガバっと札束を差し出される。その後、敵も味方も含めいろんな人が君を訪れるだろうが、とにかく何も知らないかのように振舞ってくれ、と頼まれる。あ、敵側が来たらきっと僕なら見破れるよ!とか言うねんけど、いやいや、命が危ないからそういうのもやめてくれ、とのこと。翌朝、目覚めると、自分の医院なのに、看護婦が見知らぬ人に変わってて、料理の子も消え、代わりに見知らぬおっさん二人がいてる。は?どうなってんだ? と苛立ち、混乱してると、2人の患者がやってきて、一人は米国人、一人はロシア系のようだ。あ、言い忘れてたけど、舞台は冷戦中のフランスです。その後、とつぜん現れるサングラスの男、件のアレックスは、ドイツ系のようだ。隣のカフェにもスパイらしき人物がたくさん集まってきた。気がついたら、自分はまったく関係なかったのに、身の回りがスパイだらけになってしまって、誰が敵で誰が味方なんだかまったくわからない、だれが本当のことを話してるのかもわからない、誰も信用できない。ハワード大佐とも連絡が取れないし、それが本名かどうか、てか彼が存在してるのかどうかすら怪しくなってくる。ぼろっちくて薄暗い精神病院で、どうすりゃいいのか分からない。もはや何にもわからない。みたいなカオスな状態になっていく様子が、カフカエスクに描かれていく。見てるこっちも頭ぐるぐるやし、振り回され放題。この映画は、見るのきつい人にはきついだろうが、ちょっと前に見たオーソンウェルズの審判の一貫した訳わからなさに比べたら全然マシかも。終盤にさしかかると、一気にいろんな謎がとけてって、おおー、そういうことだったのか! と納得できる。逆に、カフカ的不条理感に没頭してた人は、ここらへんで一気に冷めちゃうかも。ボクは悪夢も悪夢の解消も両方好きなので、終盤の気持ちいいクリアさに興奮! と思ったら、最後は、途中の時点でめちゃめちゃ気になってた、デカすぎる黒電話のリーン!リーン!の音に戦慄、全身鳥肌でした。クルーゾーの作品のなかではあまり評価されてないらしいけど、このめちゃめちゃ癖あるけど最終きっちりオチつける作風、個人的にはとても好きですよ。映像どのシーンもキマってて、目が離せなかったし、個性的な俳優たちも見応えあり! ヴェラクルーゾの枕破壊シーンや、とあるキャラの服毒後のシーン、終盤の電車移動のあっと愕く展開などなどインパクト大! これは、二回目以降に、さらに楽しめるタイプの映画やと思われます。
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