真世紀

青年の海 四人の通信教育生たちの真世紀のレビュー・感想・評価

4.2
映画史で日本のドキュメンタリー映画監督というと必ず名前が出てくる小川紳介監督。本や雑誌で何度も名前を目にしながら、ドキュメンタリーというジャンルにあまり触れてこなかったこともあり、作品を観る機会がなかった。が、ふとGEOで近年DVD化された初期作品が並んでいるのを見つけてレンタル。

映画は慶應大学の通信制に通う四人を追う。当時、文科省では通信制を四年制から五年制に改める方針を発表。また、大学内では経営に寄与しない通信制廃止の動きもあった。通信制の単位では大学で授業を受けるスクーリングも必須だが、各地で働きながら学ぶ学生には負担である。実際に通信制の大半は一年で脱落していく中、一年の延長はさらに厳しさを増すことになる。

他大学とも連携し、スクーリングや大学での試験など通信制同士が集まる数少ない機会に署名運動や討論集会開催するなど、取り組む四人だが、組織化が難しいことなどで時に運動は何ヵ月も停滞。そして、働きながら学ぶことの意味などにも向き合うことになる。

映画的にはまず、四人とカメラが近い。撮影的にも議論中の顔の上半分だけなんてクローズアップもあったり。スマホでも撮影できる現代とは異なることを思い起こすと改めて驚かされる。

対象の青年が女性一人、男性三人という被写体の構成もよかった。往年の学生運動というと、あか抜けない男子学生がメガホンで独特の口調でアジ演説みたいな印象があり(本作にはそんな場面ないが)、本作でも男性陣は揃ってレンズ厚いメガネ姿。その中でも学生たちにチラシを渡したりする時にかける彼女の声(女優でいうと桜井浩子さん似なんだよね)や姿が潤いを与えている。アピールに立つ準備で、彼女が額に巻いた白鉢巻に文字を書き込む男なんて、真面目な顔して筆とってるけど内心はドキドキやろとか、ついつい観ていて思っちゃう。

学生、大学の自治どころか、利潤を追い求める経済界の役に立つよう、大学が国から露骨に補助金ぶら下げられてケツ叩かれたり、最近も立教大共催で海外のカジノ経営者集めてIRのシンポジウム企画なんて話が飛び出したりする現在、当時とは大学も違って来ちゃったなぁなんてこともよぎりつつ。

そんなことを吹き飛ばすのが四人が芝生のど真ん中に広げた紙に何やら描く姿を中心にカメラがぐるぐると回転するラストは撮影する側も含めての青春ならではの躍動感なのでした。
真世紀

真世紀