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トゥモロー・ワールドのCureTochanのレビュー・感想・評価

トゥモロー・ワールド(2006年製作の映画)
2.5
なんだこの邦題、と思いつつ、同じ監督によるサンドラ・ブロックのGravityがすごく気に入ったので、いつか観たいと思っていた。いざU-NEXTで再生してみると退屈で、観終わるのに何週間もかかったので3点は無理。正直、やっと面白くなった最後の20分には、最初の方を忘れていた。結局ラストは尻切れトンボだけど。

プロットの問題として、まず主人公に目的がないため、グラヴィティと違って話の先にまるで興味がわかない。どうも原作では、彼が保護する女がジュリアンであって、ちゃんと恋愛が描かれるようなので、そこを変えたら脈絡がなくなるのも当然。一人のキャラを、元嫁と難民に分割したわけだ。

そして子供が生まれなくなると、なぜ治安が悪くなるのかがわからず、それも気になったまま話を追うことになる。むしろ出生率の低い社会ほど、治安は良いものだ。若さというエネルギーもなく、我が子のために盗むといったモチベーションもないのに、何のために暴れたりテロを起こしたりするのか?いかに人の心が荒廃しようと、行動には合理性があるものだし、ラブがないところには敵もいない。Gravityでは設定のおかげで、そういう問題が起こらなかったのだな。

ワンカットが長いという特徴も、グラヴィティでは宇宙にハマっていたし、CGなのでヘンに頑張ってる感じもなかった。本作では、いま見ているのが映画だということを、余計な間とカメラの動きが、逆に強調する結果になっている。「1917」も長回しだったが動きが無機的だったし、絵の美しさと話の展開が気になり、こっちは引き付けられた。カメラが人間の視線のように動くと、そこに人がいる感じになる、と指摘している映像技術系のユーチューブ動画もあった。少なくとも、本作の長回しはドラマを表現する助けになっておらず、モンタージュ技法って大事なんだなと思った。若い頃、「スネーク・アイズ」という長回しのある作品を映画館で観たけど、面白くなかった。再鑑賞してみよう。

見てて思い出したのは、Half-life2などの3D-FPS、要はPCゲームだった。支配層とレジスタンスが戦ったり、隠れて逃げたり、ヨーロッパの町並みまでが類似している。何より、滑らかに動いていくカメラの目線が、一人称視点のゲームと同じなのだ。

調べたら、やはりいくつかのフォーラムで話題になっていた:
https://gamefaqs.gamespot.com/boards/914642-half-life-2/51393549

ゲームではワンカットは必然的に長いので、本作のように移動しながら人が殺される場面を目にしたりする。すごく上手いプレーヤーの動画を見せられているようだった。ゲームに近づいたことが映画にとって良かったとも思えない。

本作にはキャストの問題もあるかもしれない。老ヒッピーのマイケル・ケインは少ししか出てこないし、なぜか優秀な役者から順に退場していくのも、途中で興味がなくなる原因だと思った。ケインがマリファナかなんかの種類、イチゴの咳とか言うんだけど、strawberry coughって本当にあるらしい。

ネタバレになるが、赤ん坊がいたら覗き込みたくなるっていうのも、自分が子育てをしてようやく実体験した。赤ん坊は触りたいものなのだ。われわれ男が模型が好きなのも、小さいものを愛でる本能の誤作動に違いない。この映画で一番シンパシーを感じたその部分で、何も感じない人が多いってのが今の日本のディストピアなところだろう。
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