風に立つライオン

狼たちの午後の風に立つライオンのネタバレレビュー・内容・結末

狼たちの午後(1975年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

 1975年制作、シドニー・ルメット監督による実在した銀行強盗犯による犯罪映画である。

 犯人はソニー(アル・パチーノ)とサル(ジョン・カザール)の2人でこのコンビは1972年のゴッド・ファーザーの兄弟役(マイケルとフレド)で当時、既に注目されていた。
 とは言え実行犯のソニーがアル・パチーノに似ていたこともありキャスティングされたらしい。 
 役どころのトーンはだいぶ変わって、おっちょこちょいだが人のいいアル・パチーノと二度と刑務所には戻りたくないとこのヤマにかけた必死のジョン・カザールの登場となる。
 
 社会派のシドニー・ルメット監督は徹底したリハーサルで知られているが、本作はかなり役者達のアドリブで繋いでおりタッチは実にリアリティに溢れていて冒頭から引き込まれる。

 実話だけあって「事実は小説よりも奇なり」的な場面も多い。

 冒頭、かなりびくついた3人の男がニューヨークのブロンクスにある閉店直前のチェーンス・マンハッタン銀行のとある小さな支店に押し入る。
 ソニーはライフルを包装した細長いプレゼント仕様の箱に入れ、それを抱えながら入り、ロビーでいきなりライフルを取り出そうとするも紐が絡まり、恫喝もおぼつかない。
 恐らくこれはアドリブだと思われるがその慌て者振りが実にいいし、この映画の最も記憶に残るワンカットである。

 一緒に侵入した仲間が押し入った途端に「やっぱりまずいよ」と言って出て行ってしまったり、ソニーはライフルを構えながら「俺はカトリックだから殺しはしない」と皆に伝えたり、腹が減ったからピザとビールを注文するとビールはやめとけと警官に言われコーラに素直に切り替えたり、野次馬にエールを送られ有頂天になって札束を皆に向けてばら撒いたりと単純で人のいいお調子者の性格が全編に描かれる。
 
 銀行強盗犯のクールで凶暴な定番仕様とはだいぶ違う杜撰な計画で衝動的な犯行を思わせるお間抜けな輩である。
 が故に映画になるのかもしれない。
 実際のニュース映像を見た事があるが、おバカな連中は後を絶たないと流していたが実像はこの映画が語っているようなことだったのだ。
 
 ソニーはホモでその動機は結婚した相手の男性の性転換手術費用を手に入れる為だったという。
 この当時はまだこうしたマイノリティーの市民権は無く、これら対象への社会的反発は厳しいものがあった。
 映画の中にはこうしたマイノリティー問題も盛り込まれていてストーリーに膨らみをもたらしている。
 人質籠城状態が続くと犯人と人質が立場を超えて人間的な触れ合いをし始めたり、人質が犯人に共感を覚えたりする所謂ストックホルム症候群が垣間見えたりする。
 また、野次馬が犯人を英雄的に囃し立てたりとおかしな群衆心理状態に陥るのも描かれていて興味深い。

 いずれにしてもこの頓珍漢な人間臭い犯人をして物語足り得ているが妙に展開が気になる作りになっているのはさすがアカデミー脚本賞に輝いている作品だけあると納得してしまうのである。