HidekiIshimoto

われらの時代のHidekiIshimotoのレビュー・感想・評価

われらの時代(1959年製作の映画)
4.0
大江健三郎追悼で映画検索して見つけたこれ、全く知らなんだ。日活かぁと期待薄で観たら初期大江文学の焼き付くようなを超えた、焦げ付くような虚無の歯車の空回り感を、長門さん他皆さんよく醸し出してた。冒頭の若者に希望なしのモノローグはまるで現代。けど何かが大きく違う。戦後と新しい戦前の違いなのか?大江さんの死であの戦後時代が完全に終わったと感じ、次の時代の始まりに慄く気分。まさに個人的な体験なんだけど、20代末からの苦しい空回り期に最も知性の教育を受けたのは大江さんの中期以降の本からだった。特に『燃え上がる緑の木』に至る傑作群には、このカオスの世界に新しい社会モデルを模索構築する想像力をみせつけられ、ノーベル文学賞後の『宙返り』では今も説明不能の涙を搾り取られたもんだ。どの派にも根をおろさず宙ぶらりんに見える者は信用できない奴と見做されるということ、それでも作家はそうあるべきだということも大江さんの物静かで激しい生きざまから教えられたと思う。自分だけの派を独創して死にざまを見せた三島も好きだけど、まだもうちょいあるらしき残り人生も大江さんにならい宙ぶらりんで生きていく所存。合掌。