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帽子箱を持った少女のryosukeのレビュー・感想・評価

帽子箱を持った少女(1927年製作の映画)
3.7
 雪原の地平線を画面上方に配置し、駅員の全力疾走を横から捉える超ロングショットから、彼が室内を一気に突っ切るショットへと繋ぐダイナミックな空間構築。続けて彼は線路上を疾走し、発進した列車を追いかける。強烈なエモーションはあくまで動きで見せる。バルネットの長編初監督作品ということだが、バルネットはスラップスティック・コメディから出発した人なんだな。とはいえ、時折放り込まれる目まぐるしいカッティングは、やはりこの時期のソヴィエト映画だなと思わせる。
 チャーミングでありながら不機嫌な表情ばかりを見せていたヒロイン(アンナ・ステン)が、邪険にしていた男に住む部屋がないと聞くといきなり同情がMAXになり、わざわざ街を彷徨って探し当て、偽装結婚までしてしまうのだから何ともチグハグな人物造形だった。
 画面奥でカメラに真正面を向けるヒロインと画面手前で横顔を見せるイリヤの顔を交互にフォーカス送りする代わりに、いちいちカットを切り替えるのは奇妙だったな。まだまだ技術的にも過渡期なのだろう。時折フルショットの際に人物の頭が無造作に切れていたがこれでいいのかな。歌や乱闘のシーンだけ音声ありになるのもサイレント末期を感じる。
 男が落とした小銭を拾おうと長ベンチの下に潜り込み、帽子箱が蹴り出される瞬間にロングショットに切り替わり、ひとりでに帽子箱が滑っていくのは面白い画だった。このイメージは、隣室からカーペットを引っ張られて床を滑るヒロインの画に引き継がれていく。
 駅員がぐったりしているヒロインの頭に花束を置いてしまうのが愉快。彼は、手足四本で一気に相手に飛びかかる大ジャンプを披露する。アニメーションでしか見ないような動きだな。テーブルを盾にして皿の投擲から身を守るアクションも楽しい。
 愛らしいハッピーエンドが実に良かった。指を怪我すると血を吸ってくれることを把握すると、唇に針を突き刺してしまうヒロイン!続けて駅員を介したキスを何度か見せた後、除け者を尻目に締めの1回。
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