ryosuke

エクソシスト/ディレクターズ・カット版のryosukeのレビュー・感想・評価

4.3
 発掘現場にふと静寂が訪れた後、不気味な石像とメリン(マックス・フォン・シドー)が切り立った岩の上で対峙する様を側面から捉える特撮怪獣映画のようなカットによって、何かが起動したことをド派手に示す。あまりに青白い蛍光灯が寒々しい空間を作り出す地下鉄駅で、列車が通過する突風と同時に繰り出される浮浪者との切り返し。あるいは、黒いキャソックに身を包んだカラスが、白いシーツに白い患者衣、青白い顔に埋め尽くされた精神病棟の中を進むと、女たちはゾンビのように追い縋る。ホラー映画が始まるぞという魅力的なシーンがコンスタントに披露される。
 僅かに立ち上がりが鈍いかなとも思ったが、宴もたけなわのパーティー会場に、家主の娘が姿を現すと、唐突にボトボト失禁し始めるなんて実に厭なシチュエーションの導入だ。続いてベッドの冗談のような揺れ。繊細な予感の積み重ねなどとは無縁の大味なホラーの勢いが楽しめる。
 首元に針を刺して血液がピューッと飛び出す生理的嫌悪感の強い描写と、轟音を発する検査器具に苦しむリーガンを見せていると、サッと脳のレントゲン写真に切り替わり、無音のまましばらく画面が持続した後、おもむろに写真が上下する。この呼吸、このテンポこそが映画のセンスだと思う。
 遂に悪霊が盛り上がってくる後半。ひとりでに動いた椅子がドアの開閉を妨げ、母のもとにタンスが迫る。すぐさま首が180度回転。勢いにちょっと笑ってしまった。当然スパイダーウォークの存在は知っていたが、こんなに効果的な代物だったとは。リーガンを一人残して部屋を出た母親を、暗い部屋の内部に置かれたカメラが捉え続ける不穏なショットの後、母親が階下に降りると、バークの死の知らせが届き、慟哭する母の呻き声を切り裂き、追い討ちをかけるように衝撃的なショットが差し込まれる。これは凄い。緑の液体を吐き出す嫌な描写はサム・ライミ『死霊のはらわた』『スペル』等に引き継がれているのだろう。
 肝心の悪魔祓いシーンに入って若干減速したのは否めないが。それでも、白い息が霊的な力のぶつかり合いのように見えるアイデアや、浮き上がった身体が下からの照明に照らされ、天井に影ができる物珍しいビジュアルで惹きつける。フリードキンの冷徹さがよく表れているのが、ドアを開けると、こともなげに、あっさりと死んでいるメリンの処理だった。散々苦闘した悪魔祓いは何の意味もなく、悪魔を取り込んだカラスを一瞬の窓破りアクションで奈落へと突き落として決着をつけるのも冷酷無比な手つきだな。さて決して終わることのない恐怖の連鎖が......と待っていたのだが、フリードキンはそんな単純ではなかった。リーガンの、神父の首元を見つめる主観ショットに引き続く素早いキスの動作に微かな不穏さを残して、映画は終幕する。
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