mingo

拾った女のmingoのレビュー・感想・評価

拾った女(1953年製作の映画)
4.5
サミュエルフラーの最高傑作。
今回の蓮實重彦特集以前観てたのも合わせると20本ほどしか観てないが本作が1番面白かった。マイクロフィルムの秘密を描かないあたり「キッスで殺せ!」的であり、スリをテーマにしたサスペンスでありながらメロドラマあり超絶暴力ありセックスはなしの超傑作。
狂ったように面白い。

ボッコボコに女を殴りつけリアルに棚に頭をぶつけるジーンピータースの心配をよそに、リチャードウィドマークのイカれ具合にハラハラし、病院のベッドで返答次第ではまたボコボコにされるぞと思いつつの、誰にやられた?ですよ。おまえいつ彼氏になった? ばりのドヤ顔ですよ。くそうける。

そしてやはり言及すべきはブレッソン「スリ」にも負けず劣らずの冒頭のNYの地下鉄で行われる息飲むスリシーンは絶句である。繊細な手元の動きとは対照的に開けたバッグを元に戻す際に電車が大きく揺れた反動を利用するという魅せ方。何も知らないジーンピータースの表情のアップ(う、美しい)と、ウィドマークの手元のアップが圧倒的な緊張感を生んでいる。痺れた。あと忘れてはいけないのが惨めな生活をおくる初老の女モーことセルマリッターの抹殺される運命がサスペンスの中に厚みをもたせている。

最後に圧倒的暴力で解決するに至る地下鉄のフルボッコシーンは先日ラピュタで観た「33号車応答なし」の池部良全力ぶん殴りと同じ演出であり、最後に鑑賞者が納得するいやそれさえも超えるくらいの暴力をもってして着地する茫然さ、それだけが映画の終わりで始まりなのかもしれない。兎にも角にも最前線物語や鬼軍曹ザックをはじめ、個人的お気に入り「ショック集団」や超カルト「ベートーベン通りの死んだ鳩」傑作遺作「ストリートオブノーリターン」とこんなにも映画の豊かさが広がっている映画作家サミュエルフラーという人物にただただこうべを垂れるしかないのである。死んだあともあの世で観たい傑作。
mingo

mingo