風に立つライオン

メンフィス・ベルの風に立つライオンのレビュー・感想・評価

メンフィス・ベル(1990年製作の映画)
3.8
 1990年制作、デヴィット・パットナム、キャサリン・ワイラーがプロデュース、マイケル・ケイトン=ジョーンズ監督による戦争映画である。

 第二次世界大戦の最中、ヨーロッパ戦線で白昼爆撃を敢行する B-17爆撃機に搭乗するアメリカの若者達のありのままの姿を映し出した物語である。

 キャサリンの実父はあの巨匠ウィリアム・ワイラー監督で1944年の戦時中 B-17に実際に同乗し、そこで撮影された実写戦闘シーンが本編映画で使用されている。

 製作者がデヴィット・パットナムで「炎のランナー」、「キリング・フィールド」、「ミッション」など見応えある作品を創り出していたことや件のウィリアム・ワイラー監督の実写フィルムが使われているとの前評判もあり、勇んで劇場へ出かけたものである。

 この第二次世界大戦のヨーロッパ戦線の空を舞台にした映画に名作が多い。
 1948年の「戦略爆撃指令」、49年の「頭上の敵機」などは戦闘シーンよりも人間ドラマとしてのウエイトが大きく、本編はこうした映画の影響を受けていることは間違いないだろう。
 前2作は派手な戦闘シーンはないにもかかわらず勝っても負けても若者とその家族が犠牲になる戦争の残酷さと緊迫感が胸に迫ってくる名作である。
 組織論や管理手法も盛り込まれている感もあり、後年日本の企業の人事研修素材に使用されたりもしてきている。

 本編はこうした人間ドラマを盛り込みながら10人の若き搭乗員に焦点を当て任務と恐怖と連帯や友情を描き激烈な空中戦も挿入しながらひとつの青春映画に昇華し得た作品になっていると言っていいだろう。
 10人が一機に乗り込み計25回の出撃が達成された暁には晴れて英雄として帰郷できる中、その最後の出撃に臨むメンフィス・ベル号を描く。
 そして観客はいつしかこの機に同乗することになる。

 個人的には劇中、出撃前夜のパーティーで皆不安げで盛り上がりに欠ける中、意を決してダニー・ボーイを若き搭乗員の一人として出演したハリー・コニック・jrがジャズ仕様で歌い上げ会場を一気に盛り上げるシーンが好きで印象に残る。
 これを機にジャズボーカルが好きになったものである。
 以後 B-17爆撃機を記録フィルムや映画で観たりするとこのダニー・ボーイのメロディーが頭の中に流れるようになる。
 その他、機長役のマシュー・モディーンや通信兵役のエリック・ストルツの新鮮さも思い出深いものであった。

 CGを多用し人が吹っ飛ぶ凄まじい映像が横行する現代、こういう映画でも早々に物語の中にのめり込め、純度の高いスリルとサスペンスを充分に味わえる、正に搭乗体験型アトラクション映画のひとつであると言える。