このレビューはネタバレを含みます
内戦によって生まれた家族は、愚かしいのか愛しいのか。
レバノン内戦という、日本人にはどうしても馴染みの薄い事柄だが、詳しく説明はせずに悲惨さを強調せずに、淡々といっそ柔らかな陰鬱さで描くのは秀逸。
出だしから謎めいており、最後まで加速することなく真実へ向かい、最後の最後に絡まった糸であった事を知る構成は、驚きよりも物悲しい。
実の息子にレイプされ産まれた自身の双子の子供たち。不思議めいた言動をとれど、虐待をしなかったどころか、息子にすら愛を投げかけるのは痛々しさとある種の神聖さを感じる。内戦の悲惨さと運命の悪戯によって生み出された事象を、母のナワルはしたくなかったのだろうか。愛に絡めて神聖な家族の絆はそのままだと。
カナダで平和に暮らす双子が、かつての内戦の面影など失ったと思てる過去にアクセスする内に、滲み出る重さを描き、緩やかに真実にたどり着き、啓蒙さを強調せずに苦しくなる描き方は天晴れ。
二度と見たくない作品で述べてる方もいたが個人的には、何処か芸術作品的な映画の撮り方で、この文学的な雰囲気と内戦時のギャップが胸に来て、もう1回じっくり観たいなと思った。