ひでぞう

奇跡の海のひでぞうのレビュー・感想・評価

奇跡の海(1996年製作の映画)
5.0
大傑作。信仰とは何か。神は私たちを救いうるか、究極的な問いを究明しようとする。無垢な、純粋な、子どものような、あるいは、「障がい者」のような、その純粋さと、それを押しつぶし、抑圧する社会というシステムが明瞭に描かれる。映画は、二つの見方がある、一つは、その物語をそのまま受容し味わうというもの、次には、その物語は、寓話であり、象徴であり、現実の社会のある構造を、あるシステムを切り取っているというもの。この映画は、前者で心を揺り動かされながら、後者の見方をすべきところがある。夫の理不尽な要求を、そんなのはあり得ない、物語としては破綻していると批判するのはたやすい。しかし、理不尽な要請はあふれている。その要請と抑圧に弱者はどれほど苦しめられているか。純粋で弱い者が、如何に生きにくい社会が厳然と存在しているのか。子どもたちの礫は、ベスだけではなく、あなたにも、私にも、投げつけられている(あるいは、私自身が誰かに礫を投げつけているかもしれない)。そうしたことに思い至る。その困難ななかで、信仰は、神は私たちを救いうるか、救いとは何なのか、ラストシーンとともに、厳粛な問いが迫ってくる。神の存在というキリスト教的なあり方の核心をついている。プレイリストとして、カール・th・ドライヤーの『奇跡』や『裁かるるジャンヌ』を、あるいは、ルイス・ブニュエルの『ナサリン』や『砂漠のシモン』、そして、大傑作『ビリディアナ』を、ロベール・ブレッソンの『田舎司祭の日記』や『バルタザールどこへ行く』を、そして、何よりも、イングマル・ベルイマンやタルコフスキーを、こうした世界から、偽善と善とを考える微かな手がかりが生まれる。
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