まぴお

鬼が来た!のまぴおのレビュー・感想・評価

鬼が来た!(2000年製作の映画)
4.5
【残酷なメルヘンへと昇華した類まれなる怪作】

2000年のカンヌ映画祭でグランプリを受賞作品。
鬼が来たぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

戦争映画?反戦映画?


否!!


この比喩と寓意にまみれた巧みな不条理劇は人間の支配と被支配をリアルかつ強烈に残酷なメルヘンへと昇華した類まれなる怪作だ。
この映画を観るとそこら辺の戦争映画がどれだけ表面のみの薄っぺらいものだと思い知らされる。
それほどこの戦争描写は圧倒的にリアルだ。

物語は女の喘ぎとギシギシと音を立てる小屋の風景から始まる。
突如姿の見えぬその「悪意」はその小さな村に2つの「不穏分子」を運びこむ。
神の見えざる手に導かれるように歯車はそこからギシギシと狂い始めるのだ。

優しくもあり冷酷な日本人の集団による盲従性。したたかでどこか滑稽な生き様をする村人。ガムをくちゃくちゃさせながら傍観するアメリカ人。国民党軍に導かれるように笑う民衆。誰一人誇張のなく監督は平等に描写する。

そして澤田謙也が演じる酒塚隊長の狂気。彼のそのピリピリとする空気は最近話題になった「セッション」のJ・K・シモンズ演じたフレッチャーに負けずとも劣らない存在感だ。リアリティという点では彼を上回るか...

牧歌的なコメディ要素を見せながらじわりじわりと歩み寄る不協和音。そして不意に私たちは背中を押されるのだ。殺されたくないという恐怖の連鎖。そしてその悲劇を目の当たりにしたとき全てが残酷なメルヘンとして軍艦マーチと共にぐにゃりと丸め込まれ誰もその狂気を狂気と思わなくなる地獄絵図へと変貌するのだ。

ラストのエンドロールが流れた後しばし呆然としてしまった。
そしてその沈黙の空間がしばらく続いた後、不謹慎だが不思議な笑みが込み上げて来た。
普段は自分の心の奥底に潜む鬼がチロリと覗きこむ。それは怒り?悲しみ?いやもっとドロドロとした嫌な空気を併せ持つ恐怖に似た感覚だ。
この監督とてつもなくえげつない作品を仕上げてくれた。
余計な形式を削ぎ落とすためのモノクロームな映像を利用しリアリティから遠ざかってしまう代償というそのモノクロ世界から移行し現実に帰す感覚に舌を巻かざるを得ない。そこに香川照之の演技力が加わりカルトにも似たその作品を眼前に見せつけられるのだ。相当の覚悟をもってこの映画に挑んで欲しい。

398本目
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